第2話 夢物語を編んでいく01
学校の野外修練場にある洞窟の前で、一人の少年が欠伸をしていた。
少年の名前は、キサキ・テンジョウ。
癖のある茶色の髪に、幼さの残る顔。女性と見間違えるような可愛らしいと形容しても不自然ではない顔だ。小さな瞳は漆黒を宿しているが、眠そうに細められている。
身長は同年代の者達と比べて一回りも、二回りも小さく、体格もその背に合わせてやや頼りない。
夜闇に瞬く星明りをイメージしてデザインされたらしい、その制服を着用する姿は服を着ているというよりは服に着られていると言った方がよりしっくりとくる。
紺を基調にした生地に、ところどころ金色のラインが入っているその服は、手足の袖を大分余らせて折り返されていた。
そんな少年の年齢は12歳。
しかし外見年齢を考えれば10に見たないだろう彼は、頭の上になぜかいつも立っている一房の髪の毛をゆらしながら、大きな欠伸をした。
「ふぁあああ」
洞窟の数メートル前……キサキの視線の先には林があり、ぼんやりとした視線をそちらに注いで見つめた後、がっくりと肩を落とした。
「まだか……ミシバの奴は。キリコ! いま何分だ!?」
落胆を隠すことなく全身で表現するキサキは、ややあってから洞窟の中へ向けて叫び声を放つ。
中にはクラスメイト達が数人待機している。
だがキサキは、わざわざ名前を呼ばずとも誰が答えを教えてくれるか分かっているかのような信頼の表情で、問いかけていた。
「47分だ」
返って来た少年の声に、キサキはげんなりとした表情で、再び話の方へと視線を向けなおした。
「ミシバの奴、何やってんだ? もうとっくに来てる時間だろ?」
キサキ達は今、学校授業で実践の訓練をしている。
その過程の一つで、敵をおびき出して撃破するという課題を与えられているのだが、その要である存在……敵を連れてくる役がなかなか現れなかったのだ。
「もうちょっとで、一時間経っちゃうぞ?」
西暦1990年の12月に起こった、聖夜の惨劇。
唐突にその日、黒面と呼ばれる正体不明の入り口から這い出てきた異形の化け物が世界中に溢れかえった。
原因不明の現象を前にして、多くの人々が抵抗する事もなく、化物の脅威にかかり命を落としてしまう。
始まりの場所は東京。
一日もかからず首都が壊滅し、三日も持たず関東地域から生命が姿を消す。
四日目にはすでに、誰もが絶望していた。日本全土がその化け物に蹂躙されるのも時間の問題だと囁かれるほどに。
だが、世界は持ち直した。
人々の中から、特別な力を持った討伐者……当時超能力者と呼ばれていた者達が立ち上がり、化物の進行を食い止め、討伐していったからだ。
それから十年の月日、人々は刻まれた傷跡を癒し続け、町を再び作り上げ、たくましくも脅威に対抗する力を磨き続けてきた。
西暦2000年。
キサキ達がいる場所は、
そんな世界を脅かす存在、異形の化け物……
キサキを含む数十人の生徒の生徒はその学校で、授業を受けながら退魔士となる為の、試験に合格する事を目標として、定められた期間を過ごす。
以前ほどの脅威は無くなったと言えども、世界は依然不安に包まれたまま。
討伐者となった滅士は、人々の希望となる存在だった。
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