明日、処女を捨てる

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 明日、処女を捨てる

――10万円で私の処女を買ってくれませんか?

18歳です。住んでいる場所は――


援助交際をする為、私はマッチングアプリに募集をかけた。

10万円という値段にしたのは、私が処女だからだ。

処女は貴重だとネットに書いてあった。だから値段を高めに設定した。

どうせ援助交際をするのなら少しでも値段の高い方が良い。

掲示板に投稿すると沢山の男達からメッセージが届いた。


「うわ、きもいなぁ。引くわ」


挨拶もなしにいきなりヤらせてくれだとか、お前は発情期の猿かよ。


「まあ正直、誰でもいいけど……」


でも選ばなくちゃ。

これだけ沢山の数の受信したメッセージの中から、まともそうな奴を見つけるだけの作業だけでも、もはや面倒臭いと感じてしまった。

マッチングアプリで募集したのは、失敗だっただろうか。


「まあ援助交際しようなんて奴に、まともな奴なんているわけないか」


受信したメッセージをパッと読んでいく。その中でまともそうなのは、40代の男からのメッセージだった。


「KEI。まあこの人が一番まともそうか」


私はこの男に会う事に決めた。返事を返してメッセージのやりとりをする。明日の夜、会う事になった。


私は明日、処女を捨てる。


次の日になった。私は待ち合わせ場所のコンビニへと向かった。店の前に立っていると男が話しかけてきた。


「里奈さん?」

「はい」

「KEIです。今日はよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


KEIは、清潔感のあるおじさんという感じだった。まあこれならまだマシか。


「お腹空きませんか?美味しいお店があるんです。良かったら行きませんか?もちろん奢りますので」

「はい」


KEIの車の助手席に乗り込み、シートベルトをした。私がシートベルトをしたのを確認すると、KEIは車を走らせた。


「今から行くお店なんですけどね。パスタが美味しいんですよ」

「そうなんですね」


車内でした会話はそれだけ。後は店に着くまでの間、お互い無言の状態が続いた。

店に着いた。オシャレで雰囲気の良いレストランだ。せっかくなのでオススメのパスタを注文し、二人でパスタを食べた。味は確かに美味しかった。料理が運ばれてくるのを待っている間は、何か趣味とかある?と聞かれ、お菓子作りだと答えた。女の子らしくて良い趣味だねとKEIは答えた。そして最近食べた台湾カステラが美味しかったという他愛もない話をした。食事を終えて車に乗り込んだ。


ついに今からホテルへ向かうのか?

そう思っていたが、KEIの口から出た言葉は違った。


「夜景が綺麗なところがあるんです。是非お見せしたいんです。行ってもいいですか?」

「はい」


暗い山道を登っていき、頂上に着いた。車を降りてそこから見える景色は、本当に綺麗だった。


「うわぁ、綺麗!!」


私はその夜景が綺麗で、本当に感動した。


「ひとつ僕の昔話をさせてもらってもいいですか?」


KEIは私の方を見て、少し間を置いてから言った。


「はい」

「僕にはね。娘がいた。生きていたら君くらいの歳だと思う」

「生きていたら……?」

「死んだんだ。交通事故でね。僕が娘から少し目を離した隙に、道路に飛び出したんだ。そこに大型トラックが走ってきてね。妻からは、酷く責められたよ。それから関係も悪化してね。離婚したよ。だから今はバツイチの独り身さ。……でもさすがに寂しくなってきてね。マッチングアプリに登録した。でもそこで里奈さん。あなたを見つけた。娘が生きていたら同じ年くらいの君の事がとても心配になった。……まあ僕にとっては、娘への罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。ただの自己満足かもしれない。でも君に言いたい。自分を大切にするんだ。ここで君は、一歩先に踏み出してしまうと、一生後悔する事になる。……援助交際なんて良くない。やめるんだ。君はまだ若い。いつか君を本気で好きになって愛してくれる人がきっと見つかる。その時が来るまで、君は自分を大切にして欲しい。僕は初めから君と体の関係になるつもりはなかったんだ。僕は今日、とても楽しかった。まるで娘と一緒に食事をして夜景を見に連れていってあげれたような。大きくなった娘との親子デート。そんな憧れていた時間を過ごす事ができた。ありがとう」


そして男は、白い封筒を私に渡した。


「これは約束の10万円。こんなおじさんに付き合ってくれたお礼だ。これで好きな物を買うといいよ」

「そんなっ……。こんなっ……。こんなの受け取れないよ……。私、何もしてないのに」

「……わかった。じゃあ約束してくれないだろうか。もう二度と、援助交際みたいな事はしないって。僕に約束してくれないか?」

「……わかり……ました」


それから私は、マッチングアプリを消去した。それ以来、一度も使っていない。

今では本当に好きな人ができて、恋愛をしている。

あの時の馬鹿な私は、KEIさんに出会わなければ、馬鹿なままだったかもしれない。


「KEIさん……。ありがとう……」

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