幸せになれる、その日まで

東京

 それは、二分三十秒の短い曲だった。三パーセントの慣れないアルコールとともに、俺の全身を駆け巡る。良いな、と小声でつぶやき、また体内に大人の液体を流し込んだ。ピアノの旋律。重なるドラム。次の章節への期待が膨張した。声。男の臆病な声だ。これもまた良かった。特に、特にな、歌詞がな、俺が言いたかったことをそのまま当ててくるような歌詞なんだ。不安定だけど、的確だった。

 深夜四時。冬だからまだ太陽は登っていなかった。だから、早朝ではなく深夜だった。俺は中途半端な眠気に嫌気がさし、起きてやることにした。けれど、何もすることがなかった。いや、何をすれば良いか…わかってはいたが、何もしたくなかったのだ。だから俺は、酔ってみたい、と思った。

 酒は、俺にとって強い憧れだった。疲れた大人たちは、酒を飲むたびに「ああ、今日もやっと逃げ切れた」というような顔をする。その顔がたまらなくズルくて、憎かった。嫉妬したらダサいというのを心の中ではわかっているから、憧れだというように接するけれど、心の底ではちゃんと嫉妬していた、あの同級生への気持ちに似ていた。酒は一時の逃避行だ。子どもにはない、逃げ道なのだ。そういうイメージが、俺にはあった。

 頼りなく薄暗い廊下を忍足で移動し、台所の冷蔵庫を開け、一缶の酒を盗み出した。「お酒はハタチから」と法律で決められているが、俺は「十九も二十も変わらん」と心の中でひねくれたことを言い放ち、かといって自分の弱みを隠せるようになったわけでもなかったので、何本かの中から一番酸味と苦味が少なさそうな、「あまおう苺使用」とパッケージにかかれたビール缶を取り出した。

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