思わぬ再会

「嘘だろ……」


「なんで……三雲の奴が……」


 召喚者である――クラスメイト達。かつての仲間達は絶句していた。それはもう驚いていたようだ。思わぬ、予想だにしていない来斗との再会に。

 中には口をあんぐりと開けて、呆けたような顔になっている者すらいる。状況が理解できていない様子だった。


 来斗が生きていたという事に対しても驚いたし。来斗が英雄としてこの場に招来された事に対しても信じられていない様子だ。


「三雲の奴……死んだんじゃなかったのか?」


「それになんだよ……あんな無名剣士【ノービス】なんて外れ天職に選ばれたあいつが王国を救った英雄だって? そんな事あるわけねーだろ!」


 目の前に来斗の存在を目の当たりにしつつも、面々はまだ信じられていない様子であった。それ程、来斗がこの場に現れた動揺は大きい。


「三雲君!」


 来斗が生きていた事に対して、喜ぶ者は少なかった。可憐くらいのものだ。可憐は涙ながらに来斗に駆け寄り、そして、手を握った。


「北城さん……」

「三雲君……良かった。生きてたんだ」


 手を握ったのは再会を喜んでいるだけではないだろう。目の前の来斗が幽霊か何かだと思ったのだろう。目の前にいたとしても、俄かには信じられなかったのだ。だが、手を握る事で確かな体温とその存在を可憐は感じ取った。そしてやっと、目の前の来斗が幽霊でも何でもない、本物の存在だという事を信じられたのである。


「でも、どうやってあの危険な地下迷宮(ダンジョン)を生き残ったの? それも一人で。その上にあの地下迷宮(ダンジョン)を最後まで制覇(クリア)するなんて……。それと、隣にいる子は誰なの?」


「——それは……その」


 答えるべき事が多く、来斗は答える事に困窮していた。


「あなたがこの王国を救ってくださいました、救世主様ですか!」


 その時であった。王国の王女であるソフィアが来斗の手を取った。


「あ、ああ……そう改めて言われると照れくさいけどな」


 来斗は愛想笑いを浮かべる。


「ありがとうございます! あなた様のおかげで我々の王国は救われました」


 王女ソフィアはうっとりとした、見惚れたような瞳で来斗を見つめる。


「それに関してだが……実はこの王国はまだ救われていない」


「な、なんですって! い、一体、どういう事なのですか! 我が王国は危機から救われたのではないのですか!」


「い、一体、どういう事だ! 救世主殿! 我々の王国アルヴァートゥアは滅びの危機から救われたのではないのか!」


 王女と国王は大慌てであった。一旦救われたと思われた滅びの危機。それがぬか喜びに終わるという事を、王国の危機を救った来斗から告げられてしまうのだ。


「いきなり、現れてなんだよ! てめぇは! てめぇになんでそんな事がわかるんだよ!」


「そうだ! そうだ!」


 クラスメイト達はそう、主張し始めた。来斗は思った。これ以上、隠し続ける事はできないと……いずれは打ち明けなければならなかった。なぜならば、これからやってくる最悪の結末を回避する為には他の召喚者達の協力が絶対に必要不可欠だったからである。


「今まで黙っていた事があるんだ……俺はこの世界に召喚されたのが一度目ではない。二度目なんだ」


「「「「なっ!?」」」」


「な、なんだと! それは!」


「いいから落ち着いて聞いてくれ! 本当の事なんだ。俺は女神の気まぐれか何かは本当のところはわかっていない。だけど、俺はこれまで起こってきた事、そしてこれから起こる事がわかるんだ。そして前回の世界での出来事はーー」


 来斗は召喚者達にとって、衝撃的な事実を告げる。


「これから俺達はこの王国を襲ってきた、襲撃者に襲われ、為す術もなく敗北し、全滅してしまうんだ」


 来斗の突然の告白に、場は静まり返った。


 ◇


 長い円卓。それは王国の食堂であった。舞台をその食堂に移す。食堂には王族の二人、及び他の召喚者達にも移動して貰った。来斗はそこで事情を詳しく説明する事にしたのだ。落ち着いて状況を整理し、伝えるには長い時間がかかった。


 来斗があの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』での崩落から生き残った事。それだけではなく、道中、封印されていた吸血鬼の少女ティアと協力して、地下迷宮(ダンジョン)を攻略したという事。


 来斗があの崩落で死んでいなかったという事も、生き延びていたという事も驚きの事実でもあった。しかも、たった二人であの地下迷宮(ダンジョン)を攻略したという事も。


 召喚者達にとって驚くべき事実はまだ続く。来斗が前回召喚された際の記憶を唯一持っていたという事だ。彼にとってはこの異世界召喚は二度目の召喚であった。そこでは来斗は今と同じような、外れ天職ではなく、皆と同じような賢者というチート天職に割り当てられていた。その時は皆と同じ境遇だったし、それなりに上手くやれていたんだ。


 しかし歯車は突如狂い出す。力に溺れた前回の召喚者達はより強い力により叩き潰され、そして全滅をした。それが前回での来斗の記憶であった。


「……この世界が二度目だって? 三雲、なんでお前は黙ってたんだ?」


「皆が混乱すると思ったんだ。俺が異世界召喚が二度目で、そして一度目の時、皆が全滅したなんて。これから全滅するという事を伝えられたら絶対に混乱する……。それに、俺の言ったことを笑い物にして、皆信じなかっただろ。俺は無名剣士【ノービス】なんて外れ天職に選ばれてたんだから。機会を見て、俺は打ち明けようと思ってたんだ。それで、その機会が今だと俺は判断したんだ……」

 

 今なら信じられるだろう。来斗が単身であの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を攻略できた事は全てではないが、前回の知識があったからというのも大きい。


「へぇー……」


「俄には信じられないが……信じるしかなさそうだ」


 勇希はそう言った。


「そうなんだ……だからだったんだ。私、思ってたんだよね。三雲君の雰囲気、どこか違うなと思ってたの。この世界に召喚されて、ますます確信を持つようになった。何だか、妙に落ち着いてて、変だな、と思ってた。だけど予想外の出来事じゃなくて、わかっていた出来事だったなら、納得できるよね」


 可憐はそう言って、一人納得していた。来斗の説明で納得できた人間も何人かは居たようであった。


「それで三雲君、肝心なのは今まで何があったか、じゃなくてこれから何があるかだ。僕達は前回の異世界召喚で全滅したと君は言っていたと思うが、これから僕たちが全滅するような何かが起こるのか?」


「国王陛下……この王国アルヴァートゥアには魔王の魂を封じ込めたクリスタルが保管されていますよね? 四つあるクリスタルのうちの一つが」


「な、なぜその事を! ……やはりライト殿のおっしゃっている事は本当のようだ。我が国にある機密事項を知っている者は数少ない。ましてや部外者であるはずのライト殿が知りうるはずもない事。それを知っているという事は彼の言葉にはますます信憑性がありますわい」


 国王も納得したようだ。一人頷いている。その空気感から、来斗の言っていることが本当なんだと、周囲のクラスメイト達も流されるようにして理解し始めていた。


「ライト様の言う通りでございます。我が王国には魔王の魂を封じ込めたクリスタルが存在します」


 王女ソフィアはそう言った。


「そう、そのクリスタルを求めて、魔王軍の六天王のうちの一人。竜王バハムートが竜の軍を引き連れ、この王国に攻め入ってくるんだ。俺達は必死に闘った。だけど相手は俺達よりも強力な力を持っていたんだ。俺達は竜王バハムートの前に力付き、全滅した……」


 それが前回で来斗達を待ち受けていた運命であった。


「正確な時間まではわからないが、それほどの時間を置かずに竜の軍隊が攻め込んでくるのは確かだ……俺達にはもう余り時間は残されていない」


「そうなのか……そんな運命がこれから僕たちを待ち受けているのか」


「だけど勝算ならある……前の時とは俺達は違う。その運命を変える為に俺はこの世界で二回目の人生を歩む事を決めたんだ……それに今は彼女(ティア)の力もある。今の俺達ならきっと、破滅的な運命をはね除けられるはずだ」


 来斗は力説した。もはや、誰も彼が無名剣士【ノービス】なんて外れ天職に就いたと馬鹿にする者はいなかった。


 だが、来斗が英雄扱いされ、そしてクラスの中心人物となったかのように振る舞っている事を快く思っていない者が存在していた。


 ーーそう。来斗を自分より下の存在だと断定し、こっぴどく扱っていた影沼である。彼は特にその事が気に入っていなかった。


「ちっ……」


 影に身を潜め、舌打ちをする。


(気にいらねぇな……あんな野郎がリーダー面しやがってよ……あんな外れ天職に選ばれたくせに、何、良い気になってやがる……クラスでも目立たなかった根暗野郎がよ!)


 影沼は屈折した感情を募らせていた。そして彼は信じられない凶行に出る事になる。それは仲間としてあるまじき行いであった。


 彼は全滅の危機が迫っているという、渦中にも関わらず来斗に手をかけるという、非情の決断をしたのである。


 彼はその日の夜に暗殺を決行すると決めたのだった。


 ◇


 その日の夕時の事だった。危機が迫っている……とはいえ、地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の危機は一旦は去ったのだ。そして、その労を労いたいという事で、国王は慎ましやかなパーティーを開く事になった。

 

 慎ましやかな、とは言ってもそれは国王にとっての事。国を上げてのパーティーを盛大なパーティーだと定義しているだけだ。音楽隊の演奏があり、また即席ながらも腕の立つシェフによる大量の料理がテーブルに所狭しと並んでいた。


 また、来斗達もそれなりの恰好をさせられる事となった。


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