エリクサーで死者蘇生をする

「ライトさんっ! ライトさんっ!」


「うっ……ううっ……」


 ティアは来斗を揺り動かす。ダメだった……完全に心臓が停止している。まともに反応がない。時間を置けば間違いなく、来斗は完全に死ぬ……。今の状態すら、既に死んでいるようなものであった。


 この状態になってしまえば、ティアの使える回復魔法では手遅れであった。来斗のHPは一瞬にして0になってしまったのだ。


「そんな……一体、どうすれば」


 ティアは慌てふためいていた。そんな時、ティアの脳内に妙案が閃く。


「そうだ……霊薬エリクサーなら」


 霊薬エリクサー。こういう時の為に取っておいたようなものだ。死者すら復活させると言われる霊薬エリクサーであれば、死んだようにしか見えない来斗でも復活させる事ができるはずだ。


 来斗のアイテムポーチからティアは霊薬エリクサーを取り出す。


「来斗さん……これを飲んで」


「…………」


 ダメだ。来斗の心臓は完全に停止している、目から光が失われている。自分で飲めるわけがない。だったらどうする? ……ティアにある考えが浮かんだ。その行為は酷く恥ずかしく、躊躇われる行為ではあったが、今は非常時であり緊急事態だ。


 今はそんな事は言っていられない。ティアは覚悟を決めた。そして、霊薬エリクサーを自らの口に含む。


 そして、躊躇わず来斗に口移しした。唇と唇が確かに重なり合う。キスと言われるような行為になるが、そんなロマンティックな状況ではない。これは人工呼吸のようなものだ。そこに性的(セクシャル)な意味などない。


 ごくごく……。そして、ティアは来斗に口移しで霊薬エリクサーを飲ませる事に成功した。


「んっ!」


 霊薬エリクサーの効き目は抜群であった。飲ませた瞬間、来斗の魂は現世に戻ってきて、復活を遂げたのである。だが、意識を取り戻した来斗は驚いてしまった。目を閉じたティアの顔がすぐそこ、間近にあったのだ。


 それから唇に感じる確かな温かみ。来斗はティアと唇を重ねている事に気づいた。


(な……なんでこんな事になってるんだ!?)


 来斗は一瞬混乱したが、すぐに理解する。自分がウロボロスの即死魔法(デス)でHPが0になり、間違いなく死んだという事。そして一人生き残ったティアは霊薬エリクサーを口移しで飲ませてくれたんだ。


 そう理解し、ある程度の平静を取り戻す。だが、唇と唇が合わさっていたのは間違いない。俗にいう、接吻、キスをしていたのだ。そう捉えても何の間違いはない。救命行為であり、それ以外に俗物的な意味がなかったとしても。


 例えば好きだとか恋だとか、そういう思春期の青少年、少女が好きそうなワードと無関係な行為だったとしても。


 全く意識しないというのは困難な事であった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 唇が離されると、来斗は荒く息をした。


「……ありがとう、ティア。助けてくれて」


 来斗はティアに礼を言う。


「いえ……ライトさんは私に自由を与えてくれました。だからライトさんを命を救うのは私にとっては当然の事です」


 ティアはそう言う。


「にしても……びっくりしたよ。いきなりティアの顔が大きく目に飛び込んできて、その……あんな事をしてくるなんて……」


 来斗は顔を赤くして言葉を濁す。


 ティアも顔を赤くして、顔を反らした。


「思い出させないでください! わ、私だって恥ずかしかったんですから。そ、それにあれは非常時の事でしたし。と、とにかく、わ、忘れてください!」


「そ、そうだな、その通りだ」


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 ウロボロスが自己の存在を誇示するかのように奇声をあげた。人の目の前で勝手にいちゃつんてんじゃねぇよ、そう、ウロボロスは言いたいようだった。


「とりあえず……その話は置いておこう。もうすぐだ。奴のHPは既に三割を切っている。だから必殺技のオール即死(デス)の魔法を放ってきたんだ」


 来斗はウロボロスを見上げる。HPを大分削られ、弱っている事が明白であった。頼みの綱である自動蘇生のスキルも来斗の装飾品(アクセサリ)による『解除魔法(ディスペル)』で解除されている。

 

 このままダメージを加えていけば、ウロボロスの最後の時は確実にやってくる。終わりの時はすぐそこまで近づいてきているのだ。


「もうすぐだ……もうすぐ、奴を倒せる。俺達がウロボロスを倒せるんだ。奴に勝てばこの地下迷宮(ダンジョン)から地上に帰れる」


 膨大なHPを手に入れ、そしてクリア報酬としてレアな装備を手に入れて、地上に帰る事ができる。力を得る事ができる。そうなれば一週目の時に訪れた、最悪の結末を回避できる。


 来斗の心に微かな希望の光が差し込んで来た。


「だけど、その為にはともかく、この『ウロボロス』を倒さないとな……」


 来斗は剣を構える。ティアも立ち上がり、構えた。そして二人はウロボロスを見据えた。


 そして決着の時がやってくるのだ。




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