攻略の下準備

 第40階層に辿り着かんとしている時の事だった。終わりの見えない地下迷宮(ダンジョン)ではあったが、来斗は第50階層がこの地下迷宮(ダンジョン)の最深部であるという事を把握している。


 だから、来斗にとってはこの地下迷宮(ダンジョン)攻略は決して終わりの見えない闘いではなかったのだ。故に精神的な余裕というものは……普通の人々よりもあった。


 そして、これから闘う敵がどんな敵なのかも、来斗は前回の経験から把握していた。だから、どうやって闘えばいいのか……その下準備をする必要性があったのだ。


「ここから先の敵……ボスには闇属性の敵が多い。それだけじゃない。特殊なスキルを保有している敵も多いんだ」


「詳しいんですね……」


「ティアにも少し話をしただろ……俺はこの世界が二週目なんだ。この地下迷宮(ダンジョン)も攻略した事もある……とは言っても、その時は俺と同じように、異世界から召喚された召喚者が何人もいたけどさ」


「そうでしたね……」


「少し協力してくれ……。こっちに聖属性最強の武器があるんだ」


 この地下迷宮(ダンジョン)にはティアのいた部屋のような、隠し部屋がいくつか存在している。来斗はこの地下迷宮(ダンジョン)の隠し部屋を多少は把握していた。


 初見の攻略だったら発見できないような隠し部屋も来斗は知っていた。無論、その全てではない。ティアが封印されていた隠し部屋のように、未知の領域というものも存在している。


 だが、一度攻略した地下迷宮(ダンジョン)なのだ。だから初見の冒険者などより、余程この地下迷宮(ダンジョン)に関しては熟知していた。


「は、はい……勿論、私に出来る事なら何でも協力致します」


 そう言って貰えたのはありがたいところであった。


「ついてきてくれ……こっちの方だ」


「はい!」


 40階層を前にして、二人は別のルートへと向かう。そのルートは足元のおぼつかない、険しい山脈のようなルートだった。崖になっており、底は暗くなっており、どれほどの高さなのか把握できない。ただ一つだけ言えるのは飛翔できるような種族やスキルでも持っていない場合、滑落したら間違いなく命を落とすという事だけだ。


 ティアならそれでも死なないだろうが、ただの人間の来斗は間違いなく死ぬ。


 そして険しい道を二人はしばらく歩いた。そして、頂へと至る。その頂きは道中とは異なり、平でまるで闘技場(コロセウム)のステージのようになっている。


「ここに、一体何が……」


「もうすぐだ……もうすぐ、奴が出てくる」


「奴?」


 二人はひっそりと身を潜める。羽ばたくような、音が聞こえてきた。翼の音だ。


 確かな風圧を感じる。そして、突如としてその怪物(モンスター)は姿を現した。


 光り輝く、巨大な竜(ドラゴン)。その竜(ドラゴン)とは『聖竜(ホーリードラゴン)』だった。


「来たぞ……あいつだ」


 来斗は知っていた。あの聖竜(ホーリードラゴン)を倒すと聖属性で……少なくとも来斗が知っている限りはというただし書きは入るが……最強の武器が手に入るのだ。


 ただ、聖竜(ホーリードラゴン)のLVは相当に高い。前に闘った四竜などより余程高く、そのLVは80~90程度になっている。単体だったとしても、決して侮れない相手だったのだ。


 正直、単身では挑む気すら起きない相手ではあったが、今は吸血鬼(ヴァンパイア)であるティアがいる。だから来斗は聖竜(ホーリードラゴン)に対しても十分に勝機を見出す事ができた。


「行くぞ、ティア」


「は、はい! ライトさんっ!」


 二人は聖竜(ホーリードラゴン)に対峙する。


 グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 聖竜(ホーリードラゴン)はけたたましい叫び声を上げた。


 こうして二人と聖竜との闘いが始まったのである。



 


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る