地下迷宮ウロボロスの攻略作戦
王国アルヴァートゥアから南方へ数百キロ程行ったところ。
文字にしてみると簡単ではあるが、道中には山脈と砂漠があり、危険なモンスターも出現する為、並々ならぬ道ではあった。
紆余曲折ありながらも、それでもチート級の天職を女神より授かった彼等にとってはそれほど困難な道ではなかった。難なく、地下迷宮『ウロボロス』まで到達する。
◇
「へっ……やっと着いたか……ここがあの王様の言ってた地下迷宮『ウロボロス』か」
難なく、とは言っていたがそれなりに険しい道筋にクラスの面々は疲弊していた。肉体的に、というよりも精神的にだ。そしてこれからやっとの事で行われるのが地下迷宮の攻略である。ここまではただ、目的地に着く為の移動に過ぎない。本番はこれからだ。
「確かに、不気味なオーラが漂ってくるな」
地下迷宮(ダンジョン)の入り口から既に凶悪な雰囲気を感じた。本能的に危機を覚えるような、異様な気配。生存本能が訴えてきているのだ。自ら死地に飛び込もうとしている事に対して、警告を発している。
「へっ……なんだよ。ビビってんのか?」
「うるせぇ! んなわけねぇだろっ!」
「皆! この地下迷宮(ダンジョン)は危険だ! 慎重に行くぞっ!」
そう、勇希が先陣を切る形で、地下迷宮(ダンジョン)に侵入していく。
「「「おおっ!」」」「「「はーい!」」」
男女それぞれが異なるかけ声で答えた。こうして本格的に地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の攻略作戦が始まって行くのである。
◇
地下迷宮『ウロボロス』序盤の階層からそれなりに強力なモンスターが出現した。だが、それでも英雄として特別な力を授けられ、この世界に召喚された彼等からすれば、それ程障害になるような敵ではなかった。
難なく、出現したモンスターを倒していく面々。
だが、来斗は知っていた。この地下迷宮『ウロボロス』の階層が全50階層である事に。そしてそれは丁度、中間階層である第25階層に到達した時の事だった。
そこに中ボス的なモンスターが出現したのだ。そう、今までのモンスターとは一味も二味も違う、強力なモンスターが召喚者である彼等の目の前に、立ち塞がったのである。
◇
「なんだ、なんだ。思っていたよりずっと楽勝じゃねぇか」
「この調子でサクっとこの地下迷宮(ダンジョン)もクリアできるかもしれねぇな」
「へっ……役にたたねぇな。てめぇはよ」
人は力を得た場合、他者を見下し、優越感に浸る事が多い。外れ職業を授けられた無名剣士【ノービス】の来斗の事を一部の面々は見下し、馬鹿にする事も多かった。
「仕方ねぇだろ……三雲はそんな【ノービス】なんて、外れ職業に選ばれちまったんだからよ」
「だよな……へへっ、前世でどんなバチ当たりな真似したら、そんな外れ職業に選ばれちまうんだか。日頃の行いが悪かったんじゃねぇの?」
来斗は取り合う気もなかった。説明するのも面倒だ。来斗が異世界での人生が二週目であるという事。そしてその代償として外れ職業である【ノービス】に選ばれた事。来斗が【ノービス】に選ばれた事は言わばハンデだ。それほど、事前に知識があるという事は有利なのだ。
「スカしてんじゃねぇぞ! この! 無能野郎がっ!」
影沼の手下である格闘家(グラップラー)の男が来斗に掴み掛かろうとしてくる。
「今はそんな事している場合じゃない。今度の敵は今までとは比べ物にならない位には強敵なんだぞ」
「な、なにっ!? ど、どうしててめぇにそんな事がわかるんだ」
ドスン! ドスン! ドスン!
「な、なんだ! この音は!」
クラスの面々は慌てふためき始めた。
地下迷宮『ウロボロス』第25階層での出来事だった。その階層は今までの階層とは異なり、平坦で何の障害物もない階層だった。迷路のように迷い込む事がない反面、一つ、大きな問題もあった。逃げ隠れもし辛いという事だった。
ドスン! ドスン! ドスン!
先ほどから耳が痛くなる程聞こえてくるのは巨大な足音だった。その足音の発生源というのは目の前に見える、巨大なゴーレムが発しているものだった。
ゴーレムというモンスターは石で出来た巨人である場合が多い。ゴーレムと言ってもその材質によって大きく性能が異なる。木や石に比べて、魔法金属(ミスリル)で出来たゴーレムは滅法攻撃に強い。そして、このゴーレムは魔法金属(ミスリル)で出来たゴーレムであった。 しかもただのミスリルゴーレムではなかった。このミスリルゴーレムには特別なスキルが付与されていたのだ。
来斗はミスリルゴーレムのステータスを読み取る。目の前にはミスリルゴーレムのステータスが表示された。
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モンスター名ミスリルゴーレム レベル:50
攻撃力:100
HP:1000
防御力:500
素早さ:50
魔法力:50
魔法耐性:100
スキル:絶対魔法防御
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防御力が高いというだけで何の変哲もないステータスだった。今のクラスの平均レベルは30前後で、ステータスもそれ相応に上がっていた。一見、何てことのない敵に見える。だが、このミスリルゴーレムにはある特殊なスキルがあった。
このミスリルゴーレムには『絶対魔法防御』という特殊スキルが付与されていたのである。端的に言えば魔法攻撃に対する絶対耐性がある。
しかし、前回の冒険では来斗は賢者の職業に就いていた。賢者には強烈な解除魔法(ディスペル)を使う事ができた。その解除魔法(ディスペル)により、ミスリルゴーレムの強力なスキルを解除し、最終的にはクラスの面々は勝利を納めたのだ。
だが、それはあくまでも前回での挑戦での話だ。今の来斗は賢者ではない。【ノービス】だ。その為、来斗は賢者の時に使えた解除魔法(ディスペル)を使う事ができない。そして、他の面々の中でに、かつての来斗の代わりになり得るような存在はいなかった。
ミスリルゴーレム相手に苦戦するのは必死だった。
「はあああああああああああああああああああああああ!」
勇者である勇希は先陣を切って、ミスリルゴーレムに攻撃をする。聖属性の凄まじい、剣技がミスリルゴーレムに突き刺さった。けたたましい音と共に、巨大な土煙が起こる。
「やったか!?」
「それって……フラグってやつじゃね?」
しばらくして、土煙は治まった。だが、ミスリルゴーレムは勇希の一撃を受けて、尚健在であった。
「う、うそっ! 勇希の攻撃が効かないなんて!」
クラスの面々は慌てふためいた。
「魔法だ! 魔法攻撃をしろっ!」
言われ、魔道士の少女は魔法を放つ。炎魔法(フレイム)だ。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
激しい炎がミスリルゴーレムを襲った。だが、勇希の攻撃の時と同じく、ミスリルゴーレムには通用していなかった。僅かなダメージすら与えていない。
「なんだっ! こいつっ!」
「ステータス見てなかったのかっ! こいつには魔法攻撃を無効化するスキルがあるんだよっ! 魔法なんて効くわけねぇだろっ!」
「そんなの知るかよ! だったらこんな奴どうやって倒せばいいんだっ!」
クラスの面々は一気にパニックに陥った。だが、ミスリルゴーレムはそんな事意にも介さない。
ドスン! ドスン! ドスン!
巨大な足音で、虫けら達を蹂躙する事しか目になかった。ミスリルゴーレムの不気味な眼光が怪しく光る。
「ひ、ひいっ!」
召喚者達の地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の攻略の雲行きが怪しくなっていった。
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