こいばな 🐟

上月くるを

第1話 こいばな 🐟 VOL.1



 文政8(1825)年、異国船打払令が発令された年。

 わたくしは内陸部の某お城のお堀で生まれました。


 お城の名称を明らかにしない理由……でございますか。

 あまり名誉な話ではございませんのでねえ。($・・)/~~

 せめてもの武士の情けと思し召しあそばせ。(*´ω`*)


      *


 さあてと……大昔から鯉は長生きと言われておりますが、まあ、わたくしなんぞはあなた、これで200歳近うございますから、分けても長寿の方でございましょうね。

 

 そのおかげで、わたくしども古い鯉は由来と呼んでおりますが、人間界においては歴史とか言われるものを、つぶさに見てまいりましたよ、もう飽き飽きするくらい。


 なかでもよく覚えておりますのは、お殿さまや奥方さま、ご家老さまを初めとするお武家さま方の一大事だった、幕末とか維新とか言われる時代のことでございます。


 思い返せば、あの頃はわたくしも娘の盛りでございましてね。👘

 ま、いやでございますよ、わたくしとて昔からおうなだったわけではございません。


 わたくしにも「お堀小町」と言われてチヤホヤされた時代がございましてね、堀中の真鯉たちから言い寄られてウンザリしたものでございますよ。ほっほっほっほっ。


      *


 まあ、それはともかくとしまして……。

 ええっと何の話でございましたっけ? 

 そうそう、幕末のことでございます。


 歴史なるものを研究なさっているあなたさまには、言うも野暮かも知れませんが、ご覧のとおり、豊臣秀吉の建築様式を正確に踏襲したと言われる城郭自体はあなた、そりゃあ立派なものでございます。時代は一気に飛びますが、大正時代を経て昭和に至ってから天守が国宝に指定されたのですから、それはもう間違いございません。


 ではございますが、かたや、その立派な城に住まわった歴代藩主たちはと申せば、残念ながら、城郭に見合う逸材は出なかったと判断せざるを得ないのでございます。


 分けても幕末時の殿さま方の不甲斐なさと来たら、お話にも何もなりはしません。


 会津、長州、薩摩といったスターどころに比するのは酷といたしましても、それにしても甚だしく出遅れたと申しますか、機を見るに敏でなかったと申しますか……。


 何かといえば「由緒ある三河以来の譜代大名」を誇っていながらあなた、幕府から出兵命令が来てもなかなか動こうとせず、やっと重い腰をあげたと思ったら、戦闘に行くのに物見遊山気分だったのでございますから、本当に呆れるではござませんか。


 出鱈目でたらめを申しているのではございません。

 そのことは正式な記録に残されて……。


 あ、あなたさまもご覧になられた?📓 

 なら、話が早うございますわね。(*'▽')



 


 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る