第14話スキルを試すホムンクルスちゃん
「はやいっ、です」
慟哭の叫びの残響が残るなか、アラクネがまっすぐにこちらへと突進してくる。
気がつけば、もう目の前にはアラクネの顔面。
ゴブリンの顔に八つの目が並ぶその見慣れない造形。
それでも伝わってくる。動物的な怒りが。
まるで放射熱のように、叩きつけられる殺気。
──きますっ!?
ぷぅの補佐で私が構えた鉄パイプが、ぎりぎりその前肢による横薙ぎに間に合う。
金属同士が擦れるような耳障りな衝撃音。
人並み以上の私の膂力をもってしても、そもそもの体重が足りない。
アラクネの横薙ぎによる衝撃で、私の体が宙を舞う。
目まぐるしく回る視界。
耳を覆うぷぅの補佐だろうか。直感的に理解させられた上下感覚を最大限使い、迫ってくる天井のすみへ片手と両足を使い着地する。
重力が私の体を下へと引く前に、全力で天井と壁のすみを蹴る。
目指すは、アラクネの後頭部。
アラクネの頭を越えるように飛んびながら、体全体を縦回転させ、鉄パイプを目の前に迫るアラクネの後頭部へと叩き込む。
──防がれましたっ!
まるで、後ろにも目があるかのような滑らかな動作で、前から二対目の足を背中側でクロスさせ、受け止められてしまう。
──蜘蛛とは関節の作りが違うのでしょうか。
思い返せば、階段を突き抜けてきたアラクネの脚の軌道も自由自在だった。
ちょうどそんな事を考えている間に、それを肯定するようにアラクネの前肢が動く。
自身の背面側、空中で一瞬動きを止めた私の頭目掛け、槍のように前肢が繰り出されてくる。
無理やり顔をそらし、その槍のような前肢の刺突を避ける。
「──ぷぅっ!!」
避けたと思ったそのアラクネの前肢が、私の頭を覆ったぷぅの体を捉えてしまう。
めりめりと、引き剥がされ、飛ばされていくぷぅ。
アラクネがその上体についたゴブリンの上半身部分をぐるんと回転させこちらを見てくる。
その顔には、明らかに嘲笑が浮かんでいた。
その顔はまるで、お前の大事なものを奪ってやったぞと。力の無い存在は、何も守れないのだと。
そう、嘲笑っているようだった。
私は、目の前が真っ赤に染まるような感覚におちいる。
本能のまま、とっさに、鉄パイプを手放す。
伸ばした手の先には、目の前にあるアラクネの前肢。それを、私は両手で強く強く、握る。
そして、スキル「喰拳」を発動させた。
親ガチャ失敗ホムンクルスちゃん~育児放棄したくせに私が最強に至る種だとわかった途端、父親面をしてももう遅い。とりあえず一発、その面を殴らせてもらいます~ 御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売 @ponpontaa
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