第9話挑戦するホムンクルスちゃん
部屋を出た私とぷぅは、すぐに現れた階段の前で立ち止まっていた。
下りの階段だ。
「どうも、私たちのいた二部屋以外には、この階段しか無さそうです」
「ぷぅ」
ぷぅの相づち。
私は頭のなかで位置関係を確認する。私のいた部屋。ぷぅのいた部屋。階段の順で並んでいるようだ。
覗きこんだ階段の先は折り返していて、そこまでしか見通せない。
その時だった。
「……ぷ」
ぷぅが小声で何かを告げる。
私は、その声に感じるものがあったので、そっと音を立てないように気をつけてながら後退する。
階段の前の角に身をひそめるようにして隠れる。
手にした鉄パイプをいつでも振り下ろせるように構えて。
しばらくして。階段を上ってきた何かが、角を曲がる気配──その空気の流れ。
それを元に、構えた鉄パイプを振り下ろす。
鉄パイプ越しに伝わる固い感触。
どさりという、何かが倒れる音。すぐに透明だった姿が見えるようになる。
現れたのはいつものゴブリンだった。
鉄パイプによって頭部がへこんだその姿が毎度のように消え、スキル・ラビッシュが出てきたので拾う。
「ぷぅ、教えてくれたんですね。ありがとう。あのまま階段で出会っていたら、戦いにくそうでした」
「ぷぅぷぅっ!」
喜んでいるようなぷぅの声。
私はそんなぷぅを撫でながら思考を巡らす。
──ここはやはりスキル・ラビッシュ、三つ目を使ってみるべきタイミングです。レベル三のスキル・ピラミドゥを習得しようとして弾かれてしまった時の事の苛立ちは、本当に思い出すだけでよみがえります。
私はぷぅの手触りで、気を落ち着かせる。
──ふぅ。それもあって、三つ目のスキル・ラビッシュを使うのは控えていたのですが、ちょうど五個目が手に入りました。試すにはいいタイミングです。
私はぷぅを撫でるのをやめると手にいれたばかりのスキル・ラビッシュを左腕にあてた。
「スキル・ラビッシュ、インストール」
針のようなスキル・ラビッシュの挙動を息を飲んで見守る。
再び、閃光がはしる。
今回はあらかじめ閉じていた瞳を、ゆっくりと開く。頭をよぎる、期待と不安。
成功すればレベル三以上のスキルの習得だ。それはパパの嫌がらせへの意趣返し、という意味でも大きかった。
失敗していたら、私の習得出来るスキルの条件はレベル二までとなる。しかしそれでも自由にスキルを外せる事は大きい、はずだ。
運用次第、準備次第では無限の可能性がある。
──こんな感情も、生きているとあるんですね
私はゆっくりと自らの左腕を確認した。
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