第十一夜「ワームホールからの宇宙」

 闇に浮かびながらイーグルは考えて居た。特異点と特異点の質量により、その領域は決まり、その領域からは空間の歪みにより質量を持たない光すら特異点に向って落下する。これが基本的なブックホールの原理だった筈だ。特異点は質量も重力も無限大になるから物理法則が全て通用しなくなる特殊な状況となり、その原理はその時代に至っても説明することは出来なかった。

 しかし、レーダース達は知っていた。ブラックホールの特異点はワームホールと呼ばれる空間のトンネルを作り、別次元の宇宙に吐き出される事を。宇宙は多次元的な構成で無数に連なり、パラレルワールドというものが存在することも直感的にではあるが想像することが出来ていた。

 レーダースの力は5次元や6次元、いや、10次元という究極の世界を覗くことが出来るかもしれない可能性を秘めているのだ。

 残念ながら、物理的にワームホールを使って物理的に別の宇宙に飛び出す技術は見つかっていない。あまつさえ、逆に飛び出した宇宙から元の宇宙に戻る技術等は想像すら付かなかった。このワームホールを自由に行き来出来るのは現在、レーダースの意志の力だけだった。

 イーグルはワームホールから見える遥か彼方の宇宙を眺めて居た。ぽっかりと空いた暗闇の穴から、別宇宙の銀河系が見える。陳腐な言い方だが、それは神秘的で宇宙に浮かぶ宝石の様に見えた。事実そうなのだろう。

 イーグルの宇宙も、今覗いている宇宙にも生命体は溢れて居る筈だ。ただ残念な事に物理的に連絡を取る技術が見つからないだけで存在することは実感できる。

 彼は思った。神様と呼ばれる存在が居るのだとすれば、おそらく、それを哀れの思い、レーダース達の様な力の有る者を、この宇宙に生み出したのでは無いかと。だがそれは、果たして有意義な力なのだろうか。たとえ、コンタクトした生命体が死にかけて居ても、滅びかけて居ても、ひたすら傍観するしか無い。手を差し伸べたいと思っても、それをする事は出来ない。

 しかしイーグルは思い返した。そう思っているのは相手の方では無いのか。相手の方がイーグル達の宇宙を救いたい、手を差し伸べたいと思っているのでは無いか。確かに地球の人口は激減して、いまや生物ピラミッドの頂点には居ない。そうだった。イーグルは自分に課せられた使命をもう一度思い直した。我々は、全ての宇宙にむかって助けを求めていたのだ。手を差し伸べてくれる生命体を探す事がレーダースの使命だった。

 イーグルは、その日の探査を終了して宇宙ステーションの中に戻った。そして展望台からは地球の青い姿が見えた。皮肉な事に、地球は大航海時代の地球に比べて遙かに青く、遙かに美しく輝いていた。

 宇宙の創造は神の所業なのか、『宇宙誕生に神は不要』と主張したとある天才科学者は言った。もし、宇宙を神が作ったとしたら私は聞いてみたい、なぜこの宇宙を11次元などと言う複雑な構造で作り上げたのかと。

 神は答えた、『気まぐれさ』と。

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