第11話 帰ってきた開拓村1

 賢者の石ことポムムさんを回収して、ヒルデさんの空間に戻って来た。

 ヒルデさんは満面の笑みだ。熱い抱擁を受ける。


「それで、次は何を取ってきましょうか?」


「う~ん。これだけで十分かな。契約は終了で良いわよ」


 驚いてしまった。この後は、何十年とこき使われると思ったのだが。

 話を聞くと、賢者の石は、イメージした物を具現化する物質なのだそうだ。初めに僕のスキルを封じた指輪とか、魔法を使えるようになる篭手の材料だったらしい。希少な物を僕の為に使ってくれていたのか。

 そして、ポムムさんがいれば、時間をかければ無限に創造出来るのだとか。また、話し相手も欲しかったらしい。


「それでは、僕を元の世界に帰すということですか?」


「そうね。ここにいて貰う必要もないし、送りましょうか」


「まだまだ教えて貰いたいことがあったのですが、こればかりはしょうがないですね。今までありがとうございました」


 頭を下げる。


「これからは、あなた次第よ。【スキル】も【魔法】も【闘気】もあなたの研鑽次第でさらに効果が高まって行くでしょう。現時点でも、元の世界ではかなり優位に立ち回れると思いますよ。でもそうね。【空間魔法】は他人には伝えない様にして欲しいかな。使い手が多くなると悪用する者が出て来るから」


 少し、ヒルデさんの表情に陰が出来た。

 前の世界で何かあったのだろうな。


 こうして別れを告げて、元の世界に帰ることになった。

 元の世界に戻るためには、服と靴を触媒にすることになった。短剣は、ネーナに貰った物なので持ち帰りたかったのだ。短剣は、この四年で大分汚れてしまったが一応まだ使うことは出来る。

 足元の魔法陣が起動する。そして光り始めた。


 ヒルデさんと握手をする。ポムムさんには触れるだけだったが、念話で『達者でな』と言って貰えた。

 ポムムさんは、無理やり連れてきたことになるが、それほど嫌悪感は抱いていないみたいだ。ヒルデさんの空間は、主に草原である。希望の食事が出来るのは、とてもありがたいと言っていた。そして、同族を連れてきて欲しいとも言っていた。

 その話を聞くと、ヒルデさんが拒否した。スライム族というのは、食料さえあれば、無限に増殖して行くのだそうだ。多少は増えても構わないそうだが、数が多くなれば、元の世界に戻すとも言っていたな。


「最後にお願いがあるのだけど」


 ん? 何だろう?


「伺います」


「〈魔王を自称する女性〉に会ったならば、私の名前を出してみて。それでも敵対するのであれば、多少は傷つけても良いけど、殺さないで欲しいの。あなたの世界には、彼女が必要なのよ」


 意味が分からない。だが、覚えておこう。


「〈魔王を名乗る女性〉ですね。分かりました」


 ヒルデさんは、笑顔で送り出してくれた。





 光に包まれた後に、視界が戻った。風景が変わると、洞窟の中にることが確認出来る。背後には、大穴がある……。

 ここはダンジョンであり、僕が最後にロベルトとイルゼと別れた場所だろう。問題は、どれだけの時間差が出来ているかだ。

 ヒルデさんの空間では、四年間も過ごしていたのだ。それくらいの時間差は、覚悟しなければならない。

 いや、百年単位でズレていることも視野に入れよう。


 ダンジョンを進みながら、出口を目指す。途中で、魔物が襲って来たが、難なく撃破した。このダンジョンに入った時には、逃げ回ることしか出来なかったと言うのに……。自分の変化に驚いている。と言うか、嬉しかった。元の世界に戻れたのだ。

 それも、力を得て。


 ダンジョンの出口に着いた。幸いにも誰もいない。

 ダンジョンから少し離れて、開拓村を観察する。眼に【闘気】を集めることで、遠くまで見ることが出来るのだ。〈遠視〉かな? 〈千里眼〉には程遠いが、実用性は十分である。

 そこには、以前と変わらない村と作りかけの関所があった。関所は土台だけである。僕の記憶となんら変わりがない。

 こうなると、時間的な誤差は少ないのだろうな。ヒルデさん、さまさまである。


 〈遠視〉で村の様子を伺がっていると、驚いてしまった。

 昔の僕がいたのだ。


 推測する。

 僕が、ダンジョンの大穴に落とされる前に戻って来たのか?

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