第10話 異世界3
スライムに連れられて亀の体内を移動して行く。
かなりの長距離移動となったが、大きな空間に到着した。
亀の体内にこんな場所があったとは……。
『ここの天井は、大霊亀の甲羅になる』
スライムさんが、僕の疑問に答えてくれた。
天井を見ると、苔が光っていた。あれは、僕がいた世界にもあった。ダンジョン内でも光を発する〈光苔〉だ。
火が厳禁な場所では、天井や壁に貼り付ける建物もあった。
周りを見渡すと、少なからずスライム族がいる。
集団で襲われると少し困りそうだ。僕は一応の警戒の為、【闘気】を纏った状態を維持した。
種を足元の苔の上に撒く。肥料が必要だった場合はどうしようか? 後必要なのは、水だけど……。
そんなことを考えていると、ニョキニョキと草が生え始めた。
スライム族が寄って来る。
僕はその場を離れて、種を撒き続けた。
種は蒔いた瞬間から芽吹き、急成長して行く。それをスライム達が食べ出した。
表情は分からないが、一心不乱に食べているので喜んでいるのだろう。
全ての種を撒き終わって、しばらくスライム達を観察する。
「結構な数が、この亀に住んでいるのだな」
まあ、この亀自体が巨大である。この亀からすれば、僕のサイズは微生物だろう。悪さはしなかったけどね。しなかったよな?
ここで困ってしまう。初めに会話したスライムが分からなくなってしまったのだ。
どうやって〈賢者の石〉の交渉をしようか……。
そんなことを考えている時であった。
一匹のスライムが僕の前に来た。
『とても助かった。対価としては十分だ。〈賢者の石〉を譲ろう』
スライムから、ポロっと赤い石が出て来た。
それを拾い上げる。
魔力を送り増幅するか確認する。しかし、魔力に反応はするが、増幅と言えるほどの反応は示さなかった。
『……これは、厳密には〈賢者の石〉ではありませんね。本物をください』
ヒルデさんに教えて貰った〈賢者の石〉とは、特徴が異なる。
これは、ヒルデさんが指定した物ではない。
気がつくと、スライム達が僕を取り囲んでいた。
『悪いことは言わん。それを持って、元の世界に帰るが良い』
僕はため息をついて立ち上がった。
『申し訳ありませんが、大霊亀の心臓を破壊させて貰います』
〈念話〉で僕の意思を伝えると、スライム達が襲いかかって来た。
僕は、【闘気】を全開にする。また、火魔法を纏った。
僕に襲いかかって来たスライム達は蒸発した。それを見て、後続のスライム達が僕から離れて行き囲みが崩れて行く。
それと、せっかく生えた草だったが、僕の焔に触れると炎上し始めた。
スライム達が、慌てて消化を始める。自分達の体から水分を絞り出し、放水を始めたのだ。
僕は興味なくその風景を見ながら、歩みを進める。もう話すことはなかった。
亀の体内に戻る入り口に辿り着いた時だった。
『待たれよ』
振り向くと、黄金の色をしたスライムが近づいて来た。
『何か?』
『この、大霊亀の心臓に〈賢者の石〉はない。だが、ワレの心臓には〈賢者の石〉がある。ワレの生命を差し出すので、同族の無礼を許して欲しい』
そういうことか……。
僕は火魔法を解除した。ついでに、広範囲に水魔法を放ち、延焼を食い止める。
スライム達は、実力差が理解出来たのだろう。もう、敵意を向けることはしてこなかった。
『一応聞きますが、スライム族の長で合っていますか?』
『うむ。ポムムと言う』
このスライムの核を持ち帰れば、ヒルデさんの依頼完了となるわけだ。
せめて、痛み無く殺してあげよう。
そう思った時であった。
僕の目の前にドアが現れた。
思案する。ヒルデさんの考えを読む。
『ポムムさん、一緒に異世界に来て貰えませんか?』
『……分かった、従おう』
『こう言ってはなんですが、族長がいなくなってもスライム族は大丈夫ですか?』
『新たな族長を決めて、一族をまとめ上げるだけだ。ワレがいなくなっても何も変わらん。後数千年は、同じことの繰り返しだしな』
少し安心する。
こうして、僕とポムムさんは、その世界からヒルデさんの世界に移動した。
◇
「おつかれさま」
ヒルデさんが出迎えてくれた。
「一応の確認です。依頼は完了と考えても良いですか?」
「ええ、そのスライムが来てくれたのであれば十分よ」
笑顔のヒルデさん。
ポムムさんの表情は分からないが、まあ大丈夫だろう。
ヒルデさんが、ポムムさんを切り刻まないことを祈るばかりだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます