第8話 異世界1
「取って来て欲しい物は、〈賢者の石〉と言うわ。形としては赤い宝石かな?」
一緒に食事をしながら、ヒルデさんの話を聞く。
何でも、次に行く世界にはあることはあるのだそうが、希少らしい。
図鑑を見せて貰う。
「竜族や魔物の最高レベルの魔力を宿した体に生まれる、赤い結晶ですか……」
「魔力の高い種族の心臓に生まれるの。でも、その世界で百年に一人の逸材クラスでないとダメね。千年生きる竜族でもほとんどが持っていないわ」
「……竜族や魔物を倒して、取って来いってことですよね?」
「もちろん」
良い笑顔の、ヒルデさん。
「僕はそんなに強くなっているのですか? 比較相手がヒルデさんしかいないので、理解出来ていないのですが」
「う~ん。まあ、問題ないかな? とりえず行って来て。失敗したら、また考えましょう」
ため息しか出なかった。
ヒルデさんは頭は良いのだが、研究者みたいなところがある。実験に付き合わされているみたいだ。
賢者の石の特徴を聞くと、魔力を送れば増幅されるとのこと。
ここで、とても小さな実物を貸して貰った。確かに魔力は増幅された……。されたのだが、小さすぎるので、大量の魔力を送れば壊れてしまいそうだった。
まあ、現物は確認出来たのだ。手に入ったら魔力を送り確認すれば大丈夫であろう。
ヒルデさんが、家のドアに魔力を注いで行く。
「さあ、この扉を開けば異世界に行けるように繋げておいたわ。それでは、頑張ってね」
「はい! 行って来ます。戻る時は、異世界に着いた場所に戻れば良いですか?」
「私は君を見続けるから、必要になったらドアをあなたの前に出現させるわ」
なるほど。僕のレベルで考えてはいけない人であった。
ドアを開けて、一歩踏み出す。
そこはヒルデさんと暮らした草原ではなかった。
一面、氷の大地であった。
◇
「寒い……」
火魔法で、体の周囲の温度を上げる。
空を見ると、分厚い雲が空一面を覆っていた。光はほとんど差してこない。多分昼間なのだろうが、とても薄暗い世界であった。
例えるなら、月明かりのある夜中だ。これで、夜になったらどうなるのだろうか?
まあ、そのうち分かるであろう。
それよりも、目的を果たそう。
飛翔して、高度をとる。高い位置から生物の痕跡を探したのだが、まるでなかった。
おかしい、竜族や魔物がいるはずだ。
「ヒルデさんは、何故ここに僕を転移させたのだろう?」
独りで呟いてみた。
とりあえず、後で考えようか……。適当な方向に移動を開始する。
どれくらいの時間を飛んでいただろうか? とにかく何もない。
氷の大地が延々と続く。かなり遠くに山が見えるが、あそこに何かあるわけでもない。
何か考え違いをしている気がする。
一度、地面に降り立った。
どうしようか……。【闘気】はまだある。それに、睡眠を取れば【闘気】は自動的に回復する。
考えを改める。とにかく今は、生物を見つけなければ始まらない。
「もしかして、地面の下に生物が住んでいる?」
適当な推論を立ててみた。
竜族や魔物は、本で読んだだけだ。その生態は知らない。
地下で生活している可能性を考慮していなかった。
いや、ヒルデさんは、この異世界にどんな種族がいるのかを言わなかった。もしかすると、雲の上で生活しているのかもしれない。
とにかく考える。思考を止めない。
「……やってみるか」
僕は、拳に【闘気】を集めた。
今の僕に出来る全力の一撃を地面に撃った。
大地は陥没し、四方に亀裂が走る。小型だがクレーターが出来上がった。
その割れ目に、【闘気】を流し込み地下を探る。
「!!?」
生命反応があった。だがこれは……。
次の瞬間、大地が揺れる。氷が割れて、僕のいた大地は、隆起を初めて山に変形し始めた。
この大地を魔物が覆っていたのだ。僕はその上に立っていただけだった。
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