【コミカライズ】ダンジョン領主の下克上 〜いきなりド底辺ダンジョンのマスターにされたゲームデザイナー、ブラック業界を生き抜いた社畜能力で運命を切り開く〜

石和¥「ブラックマーケットでした」

第1話 地の底でのリスタート

「ぱんぱかぱぁーん♪」


 いきなり目の前に現れたミニスカ美女が、満面の笑みで下手くそなファンファーレを奏でた。

 ……え、なにこれ。いったい、何がどうなってる?


「おめでとーございまーす♪ あなたはこの度、栄えあるエルマール・ダンジョンのマスター、そして十三代目ダンジョンしゃくに任命されましたーッ♪」


 ぱちぱちぱちー、なんつってるけどさ。

 俺からすれば、なんにもめでたい要素はない。状況説明してもらわんことにはリアクションのしようもない。


 周囲を見渡せば、寒々しい岩肌の洞窟だ。俺が立っているのは五メートル四方ほどの空間で、中央にビーチボールほどの光る球が浮かんでいる。

 その横にミニスカ美女というシュールな絵ヅラだ。少しむっちりした感じの、垂れ目な癒し系。白いブラウスにビジネススーツっぽい堅めの服装。秘書みたいな印象だけど、このシチュエーションからは完全に浮いてる。

 訳わからんながらも何かの詐欺っぽくもあり、俺は密かに警戒を強めた。


「ダンジョンしゃく? なんだ、それ。……だいたい、ここ、どこだ?」

「こちらは、アーレンダイン王国の中央、エルマール・ダンジョンです♪」


 なんだか王国はともかく、ダンジョン。……つうと、あの、あれか。

 冒険者たちが徒党を組んで攻略して、魔物を倒したり宝物を手に入れたり、惨めに野垂れ死んだりする地下迷宮。


「もしかして、ここにいちゃ危ない?」

「問題ありませんよ。最深部で、まだ魔物も罠も配置していません。ちなみに、こちらがダンジョン・コアです♪」


 へえ、この浮いてる球がね……って、待て。待て待て待て。


?」


「はい。魔物や罠は、新たなダンジョン・マスターが、自由に配置していくことになります♪」

「それが、なぜ俺。……つうか、なんでここにいるのかも全然わかってないんだが」

「アーレンダイン王国に、強制召喚を受けたからです♪」


 喜ぶな。手を叩くな。

 詳しく聞いたら俺、元いた世界で死んだっぽいじゃん! しかも過労死。三十代で。

 やっぱ、ビタイチめでたい要素はねえ。


「心機一転、張り切って参りましょう♪」

「いや、なんでだよ⁉︎ だいたい、そんなもんに巻き込まれる覚えはないぞ⁉︎」

「召喚者が現れるのは、“運命に導かれた結果”だと伝えられています♪」


 ものすげー嘘っぽい。この美女もそれをわかってて言ってるっぽい。

 それになんでか、俺を見る目にすごく熱がこもっているのが気になる。こっちは初対面だしイケメンでもなんでもないし、当然ながらその熱は好意とかじゃない。

 キョドッた感じも可愛いと言えば可愛いのだけれども、胸の奥にモヤッとした違和感が残った。

 ……そもそも、だ。


「それで、君は何者?」


 でもその答えは、なんとなく察しがついた。

 さっきから彼女が笑うごとに、宙に浮いた光球が明滅を繰り返していたから。


「よくぞ聞いてくださいました。わたしが、エルマール。ダンジョン・コアの分身体アバターです♪」


 だよねー。そうだと思った。

 思わず頭を抱えたくなるが、そんなことをしても状況は改善しない。まずは情報を整理しよう。


「強制召喚は、わかる。ダンジョン・マスターも、なんとなくわかる。ただ、その……ダンジョン爵? それは、王国の貴族にするってことなのか? 召喚者を?」

「ええ、そうです♪」


 いきなり召喚されて貴族に任命ってのも、あまり聞かない待遇だ……と思いきや。

 ダンジョンを領地とする貴族、ダンジョン爵。爵位の序列としては便、男爵と准男爵の間となっているが、これは代襲制度で縛りつけるためのもの。貴族間での地位は実質、騎士爵より下らしい。

 ……それも、遥かに。


「騎士爵って、たしか一代限りの栄誉職だよね。それより下? それホントに貴族?」

「通称、“しゃく”“ドンしゃく”“似非エセ貴族きぞく”。耕作地の少ない王国が、税収を上げるために無理やり編み出した領地と爵位です♪」

「……へえ」


 ダンジョン爵に任命されるのは異界の異能を持った召喚者か、魔力高い嫌われ者、鼻つまみ者……要するに使い捨ての生贄だ。

 召喚者って、勇者や賢者になるのがファンタジーのお約束セオリーだと思ってたけど、ここじゃ人間扱いもされてないのか。

 召喚しといて出迎えどころか、現地集合だもんな。扱いの軽さがよくわかる。


 ダンジョンが生まれれば、どのみち国は魔獣や魔物の対策が必要になるのだ。その対処や管理責任を捨て駒に丸投げして、さらに税まで掠め取る。対価はわずかな――ほんのわずかな――木っ端貴族の肩書だけ。

 他人事ひとごととしてみれば、なかなか上手い手段だとは思う。そんな無理やりな手段が上手く行くのかどうかは知らんが。


「それは、あれだよね。国土防衛のために配される辺境伯の……親戚みたいな?」

「ええ。親戚というか、私生児といったところですね♪」

「ひでぇ」


 だいたい、ダンジョンが領地とか言われたところで、農業とか商業とか工業とか、そういう一般的な経済活動はできないんじゃないのか?

 どうやって納税するのかと思えば、産出資源を換金するか、攻略してくる冒険者から剥ぐらしい。


「剥ぐって、殺して?」

「そこはダンジョン・マスターの裁量です」


 嫌な裁量だな。下手すりゃ“人類の敵”みたいな感じで汚れ仕事を背負わされるのかよ。


「ちなみに、納税額って、どのくらい?」

「ダンジョンの等級クラスによりますが、このエルマール・ダンジョンで年に金貨五十枚です♪」


 金貨の貨幣価値がわからないから、高いのか安いのかもピンとこない。

 その前に、ちょっと気になっていたところを訊いてみる。


「ちなみに、任命された場合の拒否権は?」

「もちろん、あります♪」

「なんだ、じゃあチェンジ……」

「ただし、王国のとして狙われることになりますね。、その後あまり姿を見なくなり、噂も聞かなくなることが多いです♪」


 ダメじゃん。

 つうか、そんなアホみたいな魔力量を持った奴を野放しにしないための策でもあるのか。

 ちなみに、召喚された人間を送り返す方法はないそうなので、姿を消した理由はお察しだ。


「ですが、どうしてもダメだと思ったら全てを捨てて逃げてください♪」

「……え? 良いのか?」

「命あっての物種です。ダンジョン・コアを破壊されると、ダンジョン爵は死んでしまうんですから♪」


 洒落にならないことをサラッと言いながら、破壊される本人であるところのエルマールは明るく笑った。

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