第一章 王国編
第一話 遺跡探査
深く生い茂った森の奥地。誰も立ち入らぬ様な場所に、古寂びた遺跡があった。野鳥の止まり場位にしかならないような場所だが、そこに二人の人影がやってきた。
「や、やっと着いた〜」
「ここが例の遺跡か。意外にしっかりしているな」
一人は体格の良い男性。もう一人は小柄な女性。対象的な二人だが、同じ紋章が刻まれた鎧を身に着け、何処かの所属であることを示している。
「じゃあ俺は周りを哨戒してるから、探索は任せた」
「え!?一緒に行ってくれないんですか?」
「二人共入ったら、もしもの時援軍を呼べないだろ。じゃあ頼んだぞ」
そう言うと、男性はさっさと遺跡から離れ、森の中へと入っていった。
「そ、そんなぁ〜……」
残された女性は、項垂れながらも遺跡の入り口へと、トボトボした足取りで向かう。
◇
「うぅ、中は真っ暗……壁もボロボロだし、生き埋めになったらどうしよう……」
私はリリア・カートライト。今年王国軍に入隊したばかりの新米だ。
先日の土砂崩れで、新たに出土した遺跡の調査任務に来たのだが、一緒に任務についた先輩は遺跡周辺の哨戒に行ってしまい、私一人で内部の調査をしている。
でも、入ってから暫く経つけど通路ばかりで、部屋は今のところ一つもない。代わりに通路はかなり広く作られている。土に埋もれているだけで、遺跡自体はかなり大きいのかもしれない。
「まだ奥が見えない。壁も石積みじゃないし、何の目的で建てられたのかな?」
手持ちのランタンで照らしながら、色々とこの遺跡について考えてみる。通路の材質は石材ではなく、何かの金属なのだろうか、ランタンを近づけると光を反射して光沢を放っている。
こんな建造技術、王国でも見たことがない。そんなのが大昔にあったとは思えないけど……考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
とにかく、今は奥へ進むしかなさそうだ。
「ん?あれって……門?」
暫くすると、通路の奥に巨大な門が見えてきた。何か大きな力が加えられたのか、門は歪んで半開きになっている。
「ちょっと怖いけど、中も確認しないと……」
もしもトラップの類があったら危ないので、門の縁に身を隠しながら、中の様子を窺う。
全部は見えないけど、何か色々あるのが分かった。足元の石を何個か投げてみるが、反応はない。トラップはなさそうだ。
「し、失礼しま〜す」
恐る恐る入ってみると、中はかなり広い空間であり、中心付近に何かの設備があることが分かった。しかし、ランタンをかざして辺りを見渡すと、所々に瓦礫が積み重なっていて、正直長居はしたくない。
「でも任務だし、一応見て回らないと。うぅ、怖いなぁ……」
とりあえず壁沿いに進んでみる。あの設備の調査は、あとにしよう。壁は所々罅が入っているが、意外にも脆くなっているような感じはない。
少し歩いてみると、壁際に何か大きな物体があるのに気づいた。
「な、何?」
ランタンの明かりを当ててよく観察する。瓦礫ではないソレは、私が見知った物によく似ていた。
「メイル?!こんな古びた遺跡に何で……」
メイル。正式名称はメイル・ゴレムス。錬金術と魔導力学の応用により生み出された、大型駆動鎧。
しかし、それが開発されたのはここ数十年で、こんな少し前まで土の中に埋まっていたような遺跡の中にあるなんて、どう考えてもおかしい。
「しかもこの造形、王国製どころか他国のメイルとも違う。一体これは……?」
壁にもたれ掛かるように座り込んでいるそのメイルは、人型という点は同じだが、装甲の材質などは全く違う。
しかもよく見れば、周囲にも同じようなメイルが散乱している。
「一体ここで何があったというの……?」
私は注意しながら、謎のメイルを観察する。正直いくら見ても何も分からないんだけど……。
「うーん。とりあえずアレを見たら、一回外に出よう」
メイルの観察を一旦切り上げ、後回しにしてた中心の設備に向けて歩を進める。
設備の近くまで来ると、それは予想以上に巨大な設備だと分かり、これの素材も王国では見たことがない物で出来ていた。
「やっぱりよく分からない。はぁ〜……詳しい事は専門家の人に任せよう」
そう思って踵を返し、先程の門に向かおうとした。その時だった。
ギ……ギ……
「っ?!」
近くに横たわっていたメイルの一領が、ギシギシと軋む音を立てながら動き出していた。
目に当たる部位には怪しい光が灯り、それは明らかに私を見据えていた。
ギュオンッ
「ひっ!?」
その怪しい光に睨まれ、私は情けなくも腰を抜かしてしまった。
しかしあのメイルはそんな事お構いなしとばかりに私に向けて手を伸ばす。
その動きは緩慢だが、腰を抜かした私は逃げることはできずに、ただ震えていた。
グワッ
「キャアアアアッ!?」
遂にその手が私を掴もうと迫り、その威圧感と恐怖に私は叫び声を上げた。
もうお終いだ。そう思った時。
ズダンッ
衝撃音が響き、それと同時に目の前のメイルが揺らぎ、私に向かってきていた手は弾き飛ばされた。
「―――え?」
その光景に呆然としていると、壁際の方から何かの音が、こちらへと近づいて来ているのに気づいた。
ガインッ ガインッ
「な、何……?」
音の方向を見れば、壁に横たわっていたあのメイルがこちらへと歩み寄って来ていた。
そのメイルは私には目もくれず、私を襲ったメイルに近づくと、その背中に左腕に装備した盾の先端を当てる。
「?」
その行動に私が疑問符を浮かべていると……。
ガシュンッ
「っ!?」
盾の先端から杭が突き出し、メイルの胴体を貫いた。
貫かれたメイルは僅かに痙攣した後、目の光が消えて力なく倒れ伏した。
そして、私を助けたメイルは杭を引き抜くと、今度は私の方に視線を向けた。
「あ……あ……」
私は未だに腰が抜けたまま、目の前のメイルから目が離せずにいた。
次は私の番なのだろうか。私は目を閉じて、覚悟を決める。
『……――あー、あー。君、無事か?』
しかし、目の前のメイルは私にあの盾を向けず、声を掛けてきた。恐らく、このメイルの搭乗者であろう。
「え、あ……は、はい」
『ならよかった。……少し待っててくれ』
そう言うと、メイルの搭乗者は黙り込んでしまい、暫くするとメイルがもう一領、こちらへとやって来た。
二領のメイルは暫し顔を合わせると、こちらへと向き直り、先程と同じ声が聞こえてきた。
『なあ君、一ついいだろうか?』
「は、はいっ!?」
つい声が上ずってしまったが、メイルの搭乗者は気にせず少し辺りを見回してから、続けて言った。
『俺達は、何故生きているんだ?』
「……えぇ?」
これが私、リリア・カートライトと、異世界の兵士達との出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます