LAST MISSION:リアクター暴走阻止②

21世紀半ば。欧米からの経済的独立を目指し、オーストラリアや日本を主導にアジア各国はE.E.U.(Eurasia Economic Union ユーラシア経済連合)を結成。更に、E.U.はアフリカ諸国と協力体制を敷き、新たにS.I.O.(Suwes Integration Organization スエズ統合機構)を組み、その勢力を拡大させた。

 しかし、その中でアメリカ合衆国は北米自由貿易協定をきっかけに、南北アメリカ大陸を統合。S.I.O.の支援を受けて独立したブラジルを除き、U.S.P.(United States of Pacific Rim 環太平洋合衆国)として再構築した。

 三大勢力と呼ばれたこれらは、限りある地下資源の権利をめぐり、政治的、武力的に衝突を繰り返した。しかし、それも2072年。S.I.O.ドイツが水素エンジンと燃料電池を組み合わせた半永久動力の開発に成功すると、それの技術共有と引き換えに、各勢力は休戦協定を結び、仮初の平和が訪れた。


 そして、時は流れ―――


 ◇


 2085年―――E.E.U.日本



「うあっ!?」


 飛び交う銃弾の直撃を受け、ヘイロー6の機体が揺れる。

 すぐにペダルとレバーを操作し、機体の姿勢を整えようとするが、その間にも敵機からの攻撃は続いている。


『カバーする、早く立て直せ!』

「は、はいっ!」


 隊長機であるヘイローリーダーの支援を受け、ヘイロー6はなんとか無事に機体を安定させた。

 両腕に装備したマシンガンを掃射しながら、ヘイロー6へと指示を飛ばす。


『俺が先行する。お前は体勢の崩れた敵機にとどめを刺せ、行くぞ!』

「了解っ!」


 返事を聞くや、ヘイローリーダーは自身の機体を敵機群に向けて躍らせ、ヘイロー6もそれに続く。

 彼らが戦闘を行っているのは、日本近海の無人島に建設されたとある施設の内部。ここでは、限りある地下資源に変わる、新たなエネルギーの研究が進められていた。

 粒子加速器を用いた実験により、研究も佳境に入っていたところだったが、そこで謎の部隊による襲撃を受けた。


『そこだっ!』


 ヘイローリーダーが放った銃弾が敵機体の脚部を破壊し、バランスを保てなくなった敵機体は姿勢を崩し、隙を晒す。


『今だヘイロー6っ!』

「了解っ!」


 倒れた敵機体に向けヘイロー6の機体が迫る。ヘイローリーダーが他の機体へ牽制射撃を行っている為、邪魔をされる心配はない。


「喰らえっ!!」


 ヘイロー6がトリガーを引いた瞬間、左腕に搭載したパイルバンカーが打ち込まれ、敵機体は完全に沈黙した。


『クソっ!?こいつら、無駄に腕がたちやがるっ!』

『どこの軍だ!?U.S.P.かっ?それともS.I.O.かっ!?』


 ヘイロー3、5の怒声が通信機から聞こえる。現在、研究所を襲撃している部隊には所属を示すマーカーは見当たらない。無論、わざと消しているのだろうが、そのせいで何処が攻めてきたのか特定できずにいた。


『いや、もしその二勢力だとしたら、こいつらの行動にはおかしい所がある』

『どういう事です?』


 ヘイロー2の言葉に、ヘイロー4が問いかける。


『エネルギー問題の解決は、E.E.U.を含めた三大勢力共通の重要課題だ。この施設でやってる研究だって、資金面や資材の援助と引き換えに技術提供を要求してくるくらいだ』


 ヘイロー2の言葉に、ヘイロー4はハッとして敵の部隊を見やる。


『オマケに、奴らの攻撃は温すぎる。もし奪取が目的なら、撤退の邪魔になる俺達の排除は必然にも関わらず、だ』

『た、確かに』

『一体何故……』


 直後、施設内にアラート音が響き渡った。それと同時に、隊員全員に通信が入った。


『アルファ1よりヘイローチームっ!敵部隊のハッキングによりリアクターが起動、出力増大!このままでは臨界に達してしまいます!!』

『何だと!!最悪の状況だ……!』

『こちらも対処してますが、時間が足りません。すぐに退避してください!!』


 通信を聞いたヘイローリーダーは舌打ちをすると、すぐに隊員達へ指示を飛ばす。


『ヘイローリーダーより各機!リアクターの暴走を阻止する!!速やかに敵機を撃破しろ!!』


 しかし飛んできたのは撤退ではなく、交戦継続の命令だった。

 それを聞いたオペレーターの驚きの声が、通信機越しに聞こえてきた。


『な、何を言ってるんですか!早く撤退してください!!』

『馬鹿を言うな!!このまま放置したら、どれだけの範囲に被害が及ぶと思っている!!』


 リアクターの暴走。それが及ぼす被害は、想像に難くない。島が無くなるくらいならまだしも、溢れ出た放射能により海は汚染され、海洋資源が大打撃を受ける可能性もある。

 それが理解できるからこそ、オペレーターはそれ以上何も言うことができなかった。

 ヘイローリーダーはオペレーターとの通信を切ると、隊の全員へと通信を飛ばす。


『全員、状況は理解しているな。無理強いはしない、退避したい者は……』

『隊長、水臭いこと言わないでください』


 ヘイローリーダーの言葉を、ヘイロー2が遮る。


『ここまで来たら、最後まで付き合いますよ』

『その代わり、帰ったら一杯奢ってください』


 攻撃の手を緩めず、ヘイロー3、5も答える。


『退避したところで、逃げ切れるとは思えませんしね!』

「隊長を残して、先に退けませんよ!」


 ヘイロー4と6は、隊の中では一番の新入りだ。なのに、この場で戦い続ける選択をした。


『お前ら……終わったら一杯奢ってやる、全員生きて帰るぞ!!』

『『『『「了解っ!!」』』』』


 ヘイローリーダーの呼びかけに、全員が力強く返す。

 それを聞いて、今度はオペレーターへと通信を繋いだ。


『アルファ1、臨界まで猶予はどれくらいある?』

『……現在の出力上昇率から、およそ5分です』

『十分だ』


 僅か5分。それが彼らが生きていられる時間だ。


『ヘイローチーム、加速器の制御サーバーを破壊してください。そうすれば強制的に停止させられる筈です』

『いいのか?』

『確かに貴重な装置ですが、この一帯が汚染されるよりはマシです!』

『了解した。全機聞こえたな!!』


 隊長機の呼びかけに、各機はコールサインを返し、それを確認するとヘイローリーダーは更に続ける。


『サーバーは装置を囲むように5箇所に設置してあります。すべて破壊してください!』

『よし……格闘武器を装備しているヘイロー3、6は制御サーバーの破壊を優先しろ!残りは敵部隊の牽制、一世一代の大勝負だ!気を引き締めろ!!』

『『『『「了解っ!!」』』』』


 その号令を皮切りに、ヘイローチーム全機はリアクターへと突撃する。

 タイムリミットは刻一刻と近づいていく。

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