第51話

 翌朝、目が覚めるとスッキリと起きられた。とりあえずお風呂に入ろうと思っていろいろ持ってお風呂場へ向かう。沸いてなかったとしても、自分で出来るしね!

 朝風呂! 広いお風呂場で! スタスタと歩いていると、ダーシーに会った。


「おはようございます、メイさん」

「おはよう、ダーシー。今日はいい天気ね」

「はい。洗濯日和です。お風呂ですか?」


 こくりとうなずくと、「いつでも入れるように固定魔法を使っています」と、大きなお風呂場はいつ入っても大丈夫のようだ。

 ダーシーと別れて、お風呂場に到着。ゆっくり……とまではいかないけれど、顔を洗ったり、髪を洗ったり、身体を洗ってから湯船に浸かり、はぁぁあ、と思い切り息を吐いた。湯船に浸かるのってとても気持ちが良い! 肩を揉んで軽くストレッチをした。身体が伸びる感覚がたまらなく気持ち良い。

 昨日のことを思い出して、ゆっくりと目を伏せる。……この世界にも、いろいろな事情があって、いろいろな生活をしている人たちがいる。私の目に見えるだけが現実じゃない。そのことが深く、胸に刺さった。


「……でも、今はしっかりと自分の足を地につけないといけないよね」

「なんのお話し?」

「……うわぁっ、びっくりした! おはようございます、セレスト」

「おはよう。それで、なんのお話し?」


 私は少し考えてから、セレストに昨日のことをかいつまんで話した。セレストはそれを聞いて頬に手を添えて「……そうね」と呟いた。


「世の中にはいろいろな人が居るわ。わたくしが神殿に居た頃も、いろいろなことがあったものよ……」


 しみじみとそう言うセレストに首を傾げる。神殿に居た頃の話を聞かせてくれた。親に無理矢理神殿に入れられたもの、自らその扉を開いたもの、生まれたばかりの赤ん坊を置いて行くもの……。


「……それは……」

「神殿ではそういう人たちも受け入れているからね。ただ、やっぱりそうやって過ごすのはつらいものがあったみたいで……。まぁ、いろいろあったわねぇ……。懐かしいわぁ……」


 目元を細めて遠くを見るセレストに、私は眉を下げて考えるように口元に手を添えた。


「……そう言えば、体調は大丈夫ですか?」

「今日と明日、ゆっくりと休めばまた依頼をこなせるようになるわ。……ごめんね、わたくしの都合で手伝えなくて……」

「いいえ。……その、毎月のものは人それぞれですから……」


 重い人もいるし、軽い人もいる。だからこそ、つらい人はつらいし、いつもと同じように過ごせる人もいる。


「……ありがとう。気遣ってくれているのね。わたくし、重いほうみたいで……、それでもこうしてお風呂に入れるくらいには動けるから……」

「家でゆっくりするのと、依頼をこなすのは全く違うことですから……。だから、気にしないでください。身体……お腹を温めて、ゆっくり休んでくださいね」

「ええ、ありがとう。そうさせてもらうわね……」


 セレストの言葉遣いから敬語が抜けている。痛みが酷いのか、時々つらそうに表情を歪めていた。……前世の私はどうだったっけ。どちらかと言えば、長い入院生活でそっちのほうが苦しかったしつらかった記憶が強い。

 ちなみに現在、私にはまだ来ていないから、軽いことを祈るしかない。入院生活で暇があれば本を読んでいたから、そういう知識だけは増えて行ったのよね……。前世の知識と、この世界で得た知識をどう使うかは私次第……。


「メイちゃん?」

「……湯たんぽ……が良いかな。カイロは作ったことないし……」

「どうしたの?」

「えっと、私、セレストに使ってみて欲しいのがあるので、ナタンに渡すね! ナタンから受け取ってもらえる?」

「え、ええ……。わかったわ」


 ざぱっと湯船から上がって、急いで脱衣所に向かう。セレストがぽかんとしていたけれど、思い付いたものは使ってもらいたい。

 脱衣所で魔法を使って身体を乾かし、素早くスキンケアをしてから服を着て、自室に戻り必要なものを取り出すとナタンを探しに行く。自室の扉を開けて、キョロキョロと辺りを見渡す。


「……ナタンの居場所を教えてくれる?」


 精霊たちにそう声を掛けると、精霊たちは顔を見合わせて、それから「こっちだよ」と案内してくれた。

 精霊に案内され、ナタンの部屋の前についた。……多分。

 扉をノックすると、すぐにナタンが出てきてくれた。私が来たことに首を傾げていたけれど、私がセレストに渡してもらいたいものがある、と伝えると中へ入れてくれた。扉が完全に閉まらないように、わざわざ扉の間に物を置いた彼に、私のほうが驚いてしまった。……と言うか、ラフな格好のナタンって初めて見た。なんというか……こう、色気がすごい。

 いつも結ばれていた髪の毛が、さらりと流れる。


「セレストに渡したいものとは?」

「あ、これです。湯たんぽなんですけど……。私、これから出掛けるので、セレストに渡してください。使い方は――……」


 ナタンに使い方を説明すると、「これで楽になるのか?」と聞かれたから、こればかりは個人の差だということを強調してから、


「プラシーボ効果があるかもしれないし……」


 と、つけ足した。

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