第45話

 私がポーションを全て作り終える頃には、ルイたちの配達も終わったようだ。


「はい、ポーション三百本作りましたし、配達も終えたので今日の依頼は達成ってことで大丈夫ですよね?」

「……あ、はい……。ご苦労さまでした……」

「では! 私はこれからお店の外観の仕上げをしますので、ちょっと失礼しますね!」

「え、仕上げ?」


 パタパタと足音を立てて店の外へ。鞄からペンキと刷毛、軍手を取り出して元の色に近いペンキを塗っていく。ペンキって乾かさないといけないから、そこは風の精霊にお願いした。風の精霊は快く力を貸してくれた。――うん、やっぱり綺麗な場所が一番良いと思うの。元のペンキがパステルイエローっぽい柔らかい色だったから、同じような色にしたけど……。

 それと看板もね! きっちりと塗って来たわ。私の自己満足でしかないけれど、あの状態で黙っているままなんて出来ない。だってあんまりにも……その、『店』って感じがしなかったもの。


「――すごいな、メイ。これをひとりでやったの?」

「ルイ。ちょっとね、裏技を使ってね」


 はい、実は人目に付かなそうなところは精霊たちに塗ってもらいました。あっという間でとても素晴らしかったわ……。私が精霊師だって話していないから、ルイは私ひとりでやったと思っているみたいだけど……。ごめんね、まだ話したくないの。もう少し、私を知ってもらってからにしたいの。


「あ、そうだグレアムさん。――少し、お話しが」

「えっ、おれ?」


 びっくりしたように目を丸くしたグレアムさん。私はにこりと微笑んでうなずいた。

 出した荷物を全て回収して冒険者ギルドに戻ろうとすると、ルイとグレアムさんは帰りは暗いからと明るい道のほうを選んでくれた。確かに路地裏って朝でも暗かった。

 少し遠回りになるけれど、王都の様子を眺めて歩くのは楽しかった。

 夕日が沈む少し前に冒険者ギルドについて、依頼達成の報告をしてからグレアムさんの元に。グレアムさんは「自分は冒険者じゃないから……」とギルドの中には入ってこなかった。


「ここら辺でゆっくりお話しできる出来る場所ってどこかな?」

「んー……それならもう、いっそのこと屋敷に招待する? そうすれば、人目を気にせず話せるだろう?」

「確かに! じゃあ、ルイの屋敷に向かいましょう!」

「え? え?」


 ぐいぐいとグレアムさんを引っ張るルイと私。傍から見たら変なことをしているように見えそうだ。

 別にそれでも良い。とにかく、ゆっくり話をしないといけないから!

 グレアムさんをルイの屋敷まで案内して、ルイがダーシーに「三人で話したいから空いている部屋に案内して」と頼む。――が。ダーシーは少し考えるように沈黙した。


「なにかあったの?」

「あ、いえ……。そろそろ夕食の時間に近付いたので……」


 あ、そっか。一緒に夕食を食べるかどうか悩んでいるのね。ちらりとルイを見ると、「今日、セレストとナタンは?」とダーシーに尋ねた。


「セレストさまは部屋で休んでおります。ナタンさまは、セレストさまのお世話をしておりました」

「ナタンがお世話していた?」

「はい。なんでも、『毎月のことだから気にしないで』だそうです」


 その言葉に私はピーンと来た。ルイもグレアムも何のことだろう? って首を傾げていたけれど、女性である私とダーシーには理解した。そっか、セレスト……部屋から出ないってことは、かなり重いほうなのね……。

 前世の友達で、ものすごく重い子がいたなぁと思い出し、私は「うーん」と腕を組んで唸る。


「メイ?」

「あ、えっと。それじゃあダーシー、セレストには生姜を使った料理を。出来れば温かいもの……そうね、スープが良いと思う。刻んだ生姜と、食べやすいものを。あと、気分が優れないようだったら、ホットミルクを飲ませて。身体が温まると、大分楽になると思うから」

「……かしこまりました。そうします。……ところで、食事はどうなさいますか?」

「グレアムさん、一緒に食べましょう! 夕食を食べながら話しましょう!」

「えっと、あ、はい」


 そう言えばこの世界って豆腐あるのかな? まだ見たことないけれど……。あれだけ日本食も多いのだから、多分探せばあるわよね……。うーん、今度調べてみようかな。


「毎月?」

「女の子に冷えは大敵って話よ」


 さらっと流して、ダーシーの案内で空いている部屋に。そこに料理を運んでもらうことになった。今日はバラバラの食事になってしまうからダーシーに謝ると、「気に掛けてくれてありがとうございます」とふわりと微笑んだ。その笑顔がすっごく可愛い。


「でも、なんだか寂しいので朝食は一緒に食べてくださいね」


 ひそっと耳元で囁かれた内容に、私は何度も首を縦に動かして「もちろん!」とダーシーに微笑んだ。

 ダーシーはすっと頭を下げてから出て行き、私たちはそれぞれ好きな場所に座った。


「――さて、それではグレアムさん。私があなたに話したかったことなんですけれど……。あのままだと、近い将来、あのお店は閉店することになるでしょう」

「……ちょ、直球だな……?」

「回りくどいほうが良かったですか?」

「……いや、確かにあんな状態の店なら、そう思われても仕方ないと思うよ……」

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