第43話

 受付の人に依頼書を提出すると、すぐに受理された。それから受付の人が紹介状をくれた。冒険者ギルドでこの人を派遣しますって紹介状らしい。まぁ、確かにいきなり『冒険者ギルドから依頼を受けて来ました!』って言っても怪しい人になっちゃうだけだろうし……。


「それでは、依頼頑張って来てくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 しっかりとそれを受け取って、今回はパーティ参加ではなく、私とルイのみの参加と言うことでサインをした。


「ルイ、依頼人の場所わかる?」

「うん、大丈夫。それじゃ、早速向かおうか」


 ルイが先導して歩き出した。私はルイの後ろを追いかけるように歩き出す。王都のことはルイのほうが詳しいだろう。私はまだ全然。


「こっちだよ」

「細道?」

「うん。こっちのほうが近道。でも、女性ひとりでは行かないほうがいい。路地裏だから」


 路地裏……王都でも、ううん、王都だから、路地裏って危険なのかな……?

 ルイと一緒の時は通っても大丈夫そうね。スタスタと歩くルイの背中を追って歩くこと数分、目的地にたどり着いたようだ。

 ……なんというか、伝統あるお店なのかな……、入りづらそうな……ごめん、一言で言えば古びた建物って感じ。ここ、本当にお店……? 困惑しながらも中へ入ろうとすると、扉とぶつかりそうになった。すっとルイが手を引いてくれたから助かった。


「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。……あの、私たち依頼を受けた冒険者です……」


 すっと紹介状を差し出すと、扉から出てきた人はそれを見てぎょっとしたように目を丸くした。


「受けちゃったんですか、あんなでたらめな依頼!」

「で、でたらめ?」

「だって一日でポーション三百個も作るなんて、でたらめすぎるでしょう!」

「うるせぇ! やらなきゃ潰れるんだよ!」


 店の中から怒声が響いた。


「あーもうっ、だからさっさと閉めれば良かったんだよ、この店!」


 ……仲が悪そうな人たちだなぁ……。ルイがちょっと羨ましそうに口喧嘩をしている人たちを見ている。……もしかしたら、ルイもこんな風に喧嘩をしてみたかったのかもしれないわね。……そう考えるとなんだか本当、不憫な人なんだなぁ。


「あははっ、相変わらずだなぁ、この店!」

「何言って――って、ルイ? ルイか、お前!」

「そうだよ、グレアム。王都に居るのに中々会わなかったね」

「おっどろいた、お前がこの店に来るなんて。親父、ルイだルイ! ルイが可愛い女の子連れてきたぞー!」


 私の予想とは裏腹に、どうやらここの人たちと知り合いらしい。

 どういう関係なんだろう?


「とりあえず、受けちゃったものは仕方ないし、中へ入って。本当は依頼を取り消すつもりだったんだけど……」


 困ったように眉を下げる男性は、ルイと私を中へと招き入れた――のは良いのだけど、ここは本当に店か! 埃っぽい!

 思わずケホコホと咳が出る。

 これは……ポーションを作るどころではないのでは……?


「おうルイ、久しぶりじゃねぇか。……お前いつの間にこんな可愛い女の子と知り合ったんだ?」


 店の奥のほうからひょっこりと現れたのは、白髪交じりのおじさんだった。


「ちょっとね。今はこの子とあとふたりでパーティ組んでるよ」

「ほう! お前がパーティ組むとはなぁ。ウォルター、泣いて喜ぶんじゃねぇか?」

「さぁ、泣いてはいなかったけど。……それより、この依頼受けてきたんだけど……」

「は、ルイが?」

「いや、正確にはメイが。俺は手伝い……ってメイ? どうした?」


 私がずっと黙ったままだったから、ルイが心配そうに声を掛けてきた。私は小さく息を吐いて、じっと白髪交じりのおじさんを見つめる。私に見つめられたおじさんは、「どうした、嬢ちゃん」と首を傾げた。


「――掃除」

「は?」

「――掃除、しましょう。ポーションは後からです! 配達は何時に何本納品ですか」


 私の低い声にルイがビクッと身体を震わせた。おじさんと、ルイの知り合い? の男性も。


「ご、午後に三十本を四ヶ所……」

「では午前中は掃除をしましょう。埃だらけのところでポーションを作るなんて言語道断! あとお店は清潔第一! お客さんも逃げ帰りますよ!」


 クワっと目を見開いておじさんに詰め寄ると、おじさんは私の勢いに「お、おう……?」とよくわからない返事をした。鞄から掃除道具を取り出してルイたちに渡す。


「この人数で掃除するならあっという間に終わります。さぁ、掃除しますよ!」

「……あ、はい……」


 三角巾とエプロン、マスクを取り出して装備する。はたきを手に取り、埃を下に落していく。


「さぁ、みなさんも!」

「……あ、はい……」


 男性三人組もパタパタと渡したはたきで埃を落す。掃除は上から下が基本。っていうか埃多すぎる! お店は清潔なところのほうが入りやすいし、埃が舞っている店に入りたいとは思わないだろうに……!

 午前中、徹底的に掃除をした結果……中は大分綺麗になった。だが、問題は外だ。外も綺麗にしないと入りづらいだろう。


「ルイ、お願いがあるのだけど……」

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