第31話

「……ちなみに、ナタンの肌は強いほうですか?」

「そうだと思うが……」

「なるほど……。あ、でしたらこちらを使ってみてください!」


 と、私が取り出したのはクレンジングオイルだ。


「これは?」

「クレンジングオイルです。……ええと、化粧落としです。肌が強いのなら、これも使えると思うので……使ってみてください」


 化粧落とし、と小さく呟いたナタンは「使わせてもらおう」と受け取ってくれた。ルイは興味があるような、ないような、何とも言えない表情を浮かべていた。こういうのを気にするのって女性が主かな?


「ちなみに男性も使えます」


 そっとルイにも化粧水を渡す。私が作った化粧水は、女性用、男性用、男女兼用と三種類。……ええ、正直に言いましょう。作るのが楽しくて止まらなかったのよ……。だって本当に楽しかったんだもの……。さっぱり、しっとり、超しっとり……作れば作るほどいろいろ追及したくなった。もしも前世で元気になっていたら、こういう職業に就いていた脳性もあるよね! ……まぁ、将来の夢なんて前世では全く考えてなかったんだけど……。

 ……病気が治らないことには、なにも考えられなかったしね。だから元気な身体である現在、やりたいことが多くて困ってしまう。


「……男が化粧品って使うものなのか?」

「え? 使わないの? 使っても良いと思うけど……」

「……まぁ、人によるとしか言えないな。平民で使っている人は少ないんじゃないか?」


 ナタンが私の作った化粧品を持って眺めながら、そう言った。

 ……うーん、まぁ、確かに……。化粧品って結構お金かかるしね……。安かったり高かったりいろいろあるし……そういえば前世のお父さんは髭を剃るくらいだったっけ。……あんまり覚えていないんだけど。


「ええと、肌に合わないようなら使用中止してね。朝夜の洗顔後に使ってみて?」

「……これを?」

「それを。錬金術で作ったものだし、品質は確かだから!」


 ルイは私が鑑定出来ることを知っている。だから、「そうか」とだけ言って化粧品を受け取った。


「それにしても、錬金術ってこういうのも作れるのね……」

「うん! 元々はお父さんが肌の弱いお母さんのためにいろいろ研究して作ったみたい」

「それは……素敵な話だな」


 ナタンがふっと表情を緩めた。中性的な見た目の彼がそんな風に柔らかい表情を浮かべるのを見ると、思わず綺麗、と呟いたくなる……けれど、男性がそんなことを言われて嬉しいだろうかと考えて、口を閉ざした。

 どちらかと言えば格好いい、が嬉しいのではないかな?

 ……それにしても、セレストは美人でナタンは綺麗でルイはイケメン。……ふ、平凡な容姿は私だけか……と遠い目をしつつ、ダーシーとジェフリーにも視線を向ける。

 ダーシーはどちらかと言うと可愛い系。それもとっても可愛い系。ジェフリーはルイとはまた違った感じのイケメンだ。なんだろう……こう、まさに英雄! って感じがルイで、……前世で言うアイドルって感じがジェフリー。ちなみにジェフリーのほうが、線が細い。

 いや、そんなことを言ったら、全員線が細い気がしてきた……。

 でもルイって赤竜殺しレッドドラゴン・スレイヤーなんだよね……? どう見てもこう……雄々しい感じではないのよね……。細いけど、きっと筋肉はすごいのだろう。


「あ、そうだジェフリーさん! あなたも試してみてください!」


 ひとりだけ渡さないなんてなんかスッキリしないもの。私が化粧品を渡すと、

「え? あ。ありがとうございます……?」と不思議そうにお礼を言われた。

「使い方はダーシーに聞いてくださいね、昨日、使ってもらったので」

「はい、わかりました。……メイさん、僕のことも呼び捨てで良いですよ」

「え?」

「敬語も要りません。僕とダーシーは、ルイさまたちに仕える者ですので」


 ……思わずダーシーのほうに視線を向ける。ダーシーはこくりとうなずいた。……じゃあ、とルイたちに視線を向けると、ルイは眉を下げて困ったように、ナタンとセレストはそれが普通と言うばかりに表情を崩さない。


「……ど、努力します……」

「はい。それと、昨日の食器洗い洗剤、とても便利でした。ハンドクリームも手がしっとりして驚きました」

「あ、ハンドクリームもまだあるから、良かったら……」


 鞄からハンドクリームを取り出してジェフリーとダーシーに渡すと、ふたりは頭を下げて「ありがとうございます」と言ってから頭を上げて微笑んだ。


「どういたしまして……?」


 とりあえず、ハンドクリームも肌に合ったようで良かった。これも人によっては合わない場合があるから、難しいのよね……。


「ねぇ、メイちゃん。ハンドクリームって、香り付きも作れるかしら?」

「え、あ、はい。大丈夫で……大丈夫よ」

「なら、ラベンダーとか、バラとか、ジャスミンの香りも出来る?」


 こくり、と首を縦に動かすと、セレストの表情がぱぁっと明るくなった。


「……なら、お願いがあるのだけど……」


 にこっと笑いながら私の肩をがっしり掴むセレスト。その迫力に私は目を瞬かせた。

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