第27話
ロベールが旅立つ前に、村の人たちと仲良くなってもらって襲撃に備える。それが一番良い方法だと思っていた。だって、ロベールが旅立つ時に合わせて仲間と帰ったとしても、すぐに受け入れてくれるとは思わないから……。
「それに、スローライフというのも悪くありませんもの」
「す、スローライフ?」
セレストから意外な言葉が出てきた。セレストはすっとカップを持ち上げてお茶を飲む。うーん、綺麗だなぁ。
「ええ、ゆったりとした日常を楽しむのでしょう?」
「……それとはまた、違うような気が……」
ナタンが眉を下げて呟いた。セレストのスローライフイメージってどんな感じなのか、少し興味が湧いた。ルイがそんなやり取りを見ながらお茶を飲んでいた。……なんというか、みんな結構マイペースな人たちなのかもしれないなぁ……。
「あ、でもその前に一度セレストの実家に向かわないといけないな」
「そうねぇ、今年はパーティメンバーも増えましたし、紹介しないといけませんものね」
頬に手を添えて小さく息を吐くセレストに、私とルイは首を傾げる。パーティメンバーを紹介しないといけない? 説明を求めるようにナタンへ視線を向けると、ナタンはセレストに視線を向ける。彼の視線を受けて、セレストはにこりと微笑んでうなずいた。
「多分、気付いていると思うが、セレストは貴族だ。とはいえ、末っ子だから特別に冒険者として生きることを許可された。オレはその家で騎士として働いていたんだけど、女性ひとりの旅は危険だからって護衛に任命されたんだ」
――セレスト、本当に貴族だったんだ……!
「ああ、それで高嶺の花?」
「え、高嶺の花?」
「セレスト、冒険者としては浮いているから、中々話し掛けることが出来ないって冒険者ギルドで聞いたことがある」
……まぁ、確かに? こんなに綺麗な人だし、近付きたい人も多かったとは思うけど……。……っていうか、このふたり恋人同士じゃなかったんだ……、むしろそっちに驚いた。
「……えっと、それがパーティ紹介となにか関係あるの?」
「あるのよねぇ……。お父さまに『年に一回は帰ること、パーティメンバーが増えたら紹介すること』を条件に冒険者になることを許可されましたので」
ぽかんと口を開けてしまった。そんな条件を出されていたんだ……!
「あっ、じゃあ……き、貴族の屋敷に……!?」
「招かれることになるね。で、その前に服やアクセサリーを揃えないといけないから、金は貯めとけよ」
「……わぉ。マジですか」
……そうか、貴族の屋敷に行くのだから、服装もしっかりしたやつじゃないとダメなのね!
「……が、がんばってお金貯めます……!」
「うふふ」
いつ行くのかはわからないけど、それまでにお金を貯めていろいろ買い揃えないといけないんだ……! そして、一年に一回ってことは、今年中に貯めないといけないってことよね。……私の目標にお金を貯めるってことを心の中に刻み込んだ。
「それで、ここからはこの家でのルールを決めよう。いろいろ決めていたほうが良いだろうし。ジェフリーとダーシーも一緒に決めよう」
「えっ」
ふたりの声が重なった。そうだよね、この家で暮らしているのはジェフリーとダーシー、ルイ。さらに私たちが加わったから……。多分、ふたりは自分たちが私たちの世話をしようと思ってくれていたのかな?
「私、パント村でも家事やっていたから、得意です!」
「冒険者ギルドでも言っていたよね、それ」
「はい。お父さんとふたり暮らしだったので……」
「……? お母さまは?」
「……私が小さい頃に、流行り病で」
私が眉を下げて微笑むと、みんな一瞬息を止めた、気がした。
セレストが「……申し訳ないわ……」と肩を落とす。私は慌てて「あ、いいえっ、気にしないでください!」と両手を振った。
「父子家庭で頑張って来たんだな」
「うん。お父さんは私の弓の師匠でもあるの。あと、錬金術の」
「そういえば、毒団子を作っていたが……、あの大きさの錬金釜ってあるのか?」
「あれはお父さんが、旅立つ時にプレゼントしてくれたの」
お父さんがくれたプレゼントだもん。大事に使わないと。
「どんなものが作れるのかしら?」
「いろいろです。薬も作れるし、毒も作れる。あと、武器や防具も材料があれば作れるかな?」
「……錬金術で?」
「錬金術で」
爆弾とかも作れることは黙っておこう。材料がないと作れないし……今は無理。お父さんはいろんなものの調合を教えてくれた。九年の間で覚えられるくらい。何度も何度も繰り返して自分なりの調合を突き詰めていった。
……というより、精霊たちが興味を持って、いろいろとアドバイスをくれたんだよね。そのおかげでいろんなことを知った。甘味草は一度炙るとキャラメルみたいになって美味しいとか。炙るとそのまま食べても美味しいんだよねぇ。……って違う! 今はそんなことを考えている時じゃない!
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