第26話

 ルイの案内で食堂まで向かうと、彼の言っていた通り、セレストとナタンが席に座っていた。私たちに気付くと、セレストが私に視線を向けて手招く。彼女の隣に座ると、ルイはナタンの隣に座った。いわゆる誕生日席には誰も座らない。本来なら家主であるルイが座るのだろうけれど……、彼はそういうことに興味がないようだ。

 私たちが座ってすぐに、ダーシーとジェフリーが料理を運んできた。


「す、すごい……」


 あの短時間でこれだけの料理を用意したのだろうか……。


「こちら、ぶどうジュースでございます」


 ダーシーがそう言ってみんなのグラスにぶどうジュースを注いでいく。


「それじゃあ、ふたりも一緒に食べよう」


 ルイがそう声を掛けると、ふたりは「いえ、私たちは使用人なので」と断った。だが、セレストが「あらぁ、別に良いのではなくて?」とふたりを引き留める。


「だって、ルイは貴族ではないのでしょう?」

「ああ、俺は貴族じゃない」

「……貴族に近しい方です」

「……屋敷の主です」


 一歩も引かない人たちを見て、私はおろおろと三人を見た。セレストとナタンはどちらが折れるのかを興味深そうに眺めていた。


「……ご飯は、みんなで食べたほうが美味しい、よ?」


 私がおずおずとそう声を掛けると、ダーシーとジェフリーは顔を見合わせて、それから「……ではお言葉に甘えます」と頭を下げた。別々に食べるよりはみんなで食べたほうが美味しいし、片付けもしやすいだろう。

 ダーシーが私の隣、ジェフリーがルイの隣に座った。ルイの満足そうな表情に、ふたりはちょっと驚いていたように見えた。


「それじゃあ、俺らのパーティ結成と、ふたりが一緒に食事をしてくれることを記念して、乾杯!」


 ルイが明るい声色でそう言うと、グラスを高く上げた。だから、私たちもグラスを持って、「乾杯!」と言って高く掲げてからぶどうジュースを飲んだ。甘酸っぱい味が口の中に広がる。甘みと酸味がちょうどよい。


「美味しいぶどうジュースね」

「ありがとうございます。仕入れ先に伝えておきます」

「料理も、冷めないうちにどうぞ」

「あ、はい」


 みんなでワイワイと食事をするのって、なんだか楽しい。

 ……それにしても、セレストもナタンもすっごく綺麗に食べるなぁ。テーブルマナーが完璧だ。パンをひと口サイズにちぎり、口にする。スープを掬って口に運ぶ。ステーキを切る姿すらなんだか見惚れてしまうくらい美しい。


「……どうしたの?」


 私の視線に気付いたセレストが尋ねてきた。私は首を左右に振って、「食べ方が綺麗だなぁと思って」と正直に答えると、セレストはぱちくりと目を瞬かせて「うふふ」と目元を細めて微笑んだ。うーん、とても綺麗。


「良かったら、テーブルマナーを教えましょうか? 覚えていて損なことはないから」

「……え、教えてくれるんですか?」

「ええ、わたくしでよければ」

「是非、お願いします!」

「では、明日から始めましょう」


 セレストの言葉に大きくうなずいた。みんなで食べるとあっという間に時間が過ぎて行き、食後のお茶をダーシーとジェフリーが用意してくれた。そして、私たちは今後のことについて話し合う。


「……さて、それでは、今後のことについて話し合おう」


 食後のお茶をひと口飲み、カップを置いたところでナタンが口を開いた。


「とりあえず、メイちゃんの冒険者ランクを上げるのが先じゃないかしら?」


 セレストが私へ顔を向けてそう言った。……今日なったばかりだから、私の冒険者ランクは九。


「メイならサクサク中級ランクまで行けると思う。ジャイアント・クロウをあれだけ簡単に倒せるんだし」

「まぁ、確かに。あれだけの実力があるのならすぐだろう」

「あ、あの……、冒険者ランクを上げるのも良いのですが、私、みなさんからいろいろなことを教わりたいです!」


 私の目的はパント村を救うこと。ロベールが安心して帰って来られる場所を維持すること。


「……村が襲撃される予定でもあるの?」

「それは……わかりません。でも、可能性はあると思います」


 原作小説のことは言えないし……言ったとしても、信じてはくれないだろう。ここが小説の中だなんて、思わないだろうから。


「私、一年は王都で頑張りたいんです。王都でいろいろなことを学んで、一年後には村に戻って学んだことを村人たちに伝えて、村を守る手筈を整えたいのです」


 十六歳のロベールの誕生日、その日に彼は旅立つ。私の視線を受けて、みんなは少し考えているようだ。


「……その村って、わたくしたちも行って良いのかしら?」

「……へ?」

「だって、折角パーティを結成したのに一年でお別れじゃ悲しいもの。それに、わたくし、村ってあまり行ったことがないから、気になっていたのよねぇ……」


 頬に手を添えてにこっと微笑むセレストに、私はぱぁっと表情を明るくさせた。


「来ていただけるのなら、とてもありがたいです!」

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