第21話

「初めまして、メイちゃん。わたくしはセレスト。こちらはナタンよ」

「はっ、初めまして。セレストさん、ナタンさん!」


 ふたりともとっても綺麗な人だからどもってしまった。


「わたくしにもナタンにも敬称は要らないわ。あ、でもわたくしはメイちゃんって呼ばせてもらって良いかしら? メイ、と呼び捨てにするよりも、メイちゃんのほうが、響きが可愛くなくて?」


 さらりと流れる金色の髪の毛に、まるでキラキラと輝くサファイアを埋め込んだかのような煌めく瞳。聖職者の服を着ているから、僧侶……かな?


「はい、好きに呼んでください!」

「ありがとう。わたくしは見ての通り、僧侶なの。ランクは五。回復魔法と補助魔法でサポートするのが、わたくしの戦い方」

「……俺はナタン。セレストとパーティを組んでいる。魔法剣士で、ランクは五」

「魔法剣士!」


 思わずそこに反応した。ナタンは魔法剣士に反応したことが意外だったのか、少し驚いたように私を見た。セレストがサファイアのような瞳なら、ナタンはエメラルドのような瞳だわ。銀髪の髪っていうのも似合っている。……中性的な顔立ちだったし、声も中性的だったけど、一人称が『俺』だったし、きっと男の人よね……?


「俺はルイ。剣士だ」

「ええ、知っていましてよ。赤竜殺しレッドドラゴン・スレイヤー


 ――レッドドラゴン・スレイヤー?


「……ドラゴンって倒せるものなの?」


 思わず聞いてしまった。人間とドラゴンでは、どう考えたってドラゴンのほうが強いと思うから。


「……倒せた、というか……、いや、今はその話ではなく、自己紹介の続きだろ」

「……えっと、さっき冒険者になったばかりのメイです。武器は弓、家事は得意!」

「それで、メイちゃん。貴女はどうして『なにかを守れる力』を欲しているのかしら?」


 セレストがにこりと微笑みながら聞いて来た。私の心なんて見透かすような、瞳を向けて。


「……大切な人たちを、守りたいから」

「なぜ?」


 原作を知っているから……、とも言えない。だから、代わりに私は目を閉じて言葉を紡ぐ。


「……私の故郷は森の中にあります。今は大丈夫でも、魔物たちに襲われたり、山賊に狙われたらあっという間に壊滅状態になるでしょう。村には戦える人が少ないですし……。だから、私が強くなって、そして信頼できる人たちに村の守り方を教わりたい――……が、理由では足りないですか?」


 そしてなにより、村には『勇者』がいる。勇者を守るために村には結界が張られていて、悪意を持つ人たちを森の中に彷徨わせることが出来るらしいけど……。実際の効果がどのようなものかは知らない。私がわかるのはロベールをすくすくと育てるために存在する村、ということ。


「なるほどねぇ……。良いわ、その瞳。覚悟を決めた人の目をしている。わたくしとナタンで良ければ、力になるわ」

「あ、ありがとうございます……!」

「……全く、この人は……」


 ナタンが諦めたように息を吐く。どうやら、このふたりの間ではセレストが決定権を持っているらしい。


「……それじゃあ、パーティ申請に行こうか」

「パーティ申請?」

「そう、パーティ申請しておかないと後でトラブルになるかもしれないから」


 ……報酬の取り分とか、仲間に連絡が行き渡らないとか? そんなことを考えながらルイが先導して歩いていくのでそれを追った。今度は別のカウンターだ。受付嬢も別の人。

 パーティ申請用紙に記入して、正式にパーティを組むことになった……けれど、ここでひとつ問題が。


「――パーティ名?」

「はい、なにかありますか?」


 考えたことなかった! 原作で冒険者の話は出てこなかったし、パーティ名が要るとは知らなかった! そしてパッと思い付いた名前がパント村を救い隊だから、私にネーミングセンスはないな、と肩を落とした。

 どうしよう、と悩んでいるとナタンが「仮ってことで」とパーティ名を書いた。なんて書いたのだろうと見てみると、『メルナセ』と書いてあった。どういう意味だろう?

 首を傾げていると、パーティ名を見たセレストとルイが吹き出した。


「あとでちゃんとしたパーティ名を考えるってことで良いよな」

「わたくしは良くってよ」

「俺も」

「も、もちろんです!」


 パーティ申請をしてから冒険者ギルドに貼られている依頼を見ることになった。


「まずはメイちゃんの実力が見たいわ。わたくしたちもフォローするから、弱い敵の討伐から始めましょう」

「――その必要はない。メイの強さは俺が保証する」

「えっ!?」


 ルイに強さを保証されるとは思わなくて驚いた。そして驚き過ぎて声がひっくり返った。


「メイなら中級クラスの魔物でも戦えるだろう」

「では……このくらいの強さの敵から始めてみましょう。わたくしたちはフォローということで」


 そう言って、セレストは鳥の魔物を選んだ。カラスをもっと大きくしたような黒い鳥のようだ。……確かに鳥なら弓矢で仕留めたことはあるけれど、これ大きいよねぇ……。記念すべき初めての依頼が失敗で終わらないことを願いつつ、魔物討伐の受付に向かった。


「ジャイアント・クロウですね。こちら、二羽が達成条件となっております。パーティで向かわれるのでしたら、代表者の冒険者カードをお貸しください」

「代表者?」


 パーティ申請用紙にはそんなこと書いていなかったような。みんなで顔を見合わせて、私は一言。


「年長者が代表のほうが良いのでは?」

「……なら、多分オレだな」

「ちなみにルイは何歳?」

「多分十八くらい」


 多分、と、くらい、が気になるところではあるのだけど……。セレストは何歳くらいなんだろう。でも女性に年齢を聞くのは野暮ってものよね。


「二十歳のオレが代表者になったほうが良さそうだな」

「そうね。ナタン、お願い」


 セレストにお願いされたナタンは小さくうなずいて、冒険者カードを差し出した。

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