第20話

「得意な武器はありますか?」

「はい、弓です。持ってもいます」

「では、弓の腕を見せていただきますね」


 私は弓と弓矢を取り出す。パチン、と受付嬢が指を鳴らすと的が現れた。……どういう仕組みなんだろう。


「まずは動かない的から」

「……はい!」


 まずは、ということは次は動く的になるのだろう。そう判断してゆっくりと息を整える。肩の力を抜いて、真っ直ぐに的を見据える。


「行きます!」


 弓を構えて矢を放つ。九年間、ずっとやってきたこと。真ん中に命中したのを見て、受付嬢が「では、次は左右に揺らしますね」と指を鳴らした。どうやら指を鳴らすことで的を操作しているようだ。これも魔法なのかな。

 ゆらゆらと左右に揺れる的を狙い弓矢を放つ。真ん中に命中。その次はぐるんぐるんと的が大きく円を描いた。ちょっと面白い。私は口角を上げて、的を狙う。命中。何回かそれを繰り返していると、的がぴたりと止まった。


「お見事! これなら冒険者としてもやって行けるでしょう。……ただ、魔物は的と違って襲い掛かってきますので、お気を付けくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 受付嬢は的を消すと、今度は別の部屋へと案内した。


「こちらで冒険者カードを発行します。この水晶玉に手を触れさせてください」

「はい」


 ファンタジーだなぁ……。と考えながらぺたりと水晶玉に手を触れさせた。ひんやりとした感触とつるつるとした触り心地の良さに少し驚きつつ、ぱぁっと水晶玉が光ったことにも驚いた。さらに、パッとカードが目の前に浮き上がって来たことにも!


「冒険者カードは身分証明書にもなりますので、紛失しないようにお気を付けください」

「は、はい……。……ランク?」


 冒険者カードを受け取って、じっと項目を見る。冒険者カードにはさっき私が書いた『メイ』という名前が記載されていて、他にもいろいろと書いてあった。その中で一番気になったのはランクという文字。


「はい、冒険者はランク制です。下位は九、八、七、中位は六、五、四、上位は三、二、一。そして、特別な冒険者ランク、ゼロがあります」

「ゼロ?」

「ええ。特別な功績を残した冒険者に贈られるランクです」


 そんなランクもあるんだ。特別な功績ってどんな感じのかしら。


「……えっと、実際にそんな人がいるのですか?」

「ええ。さて、それではメイさんはソロで活動されますか? それとも仲間を募集しますか?」

「あ、仲間を募集します!」

「わかりました、ではメンバーを探しましょう」


 私の目的は冒険者になり、パント村を救うことを手助けしてくれる人を見つけること! そのためには仲間を見つけないとね!

 私は受付嬢と一緒に戻り、ざわざわと賑やかな冒険者たちに聞こえるように大きな声を上げた。


「初めまして、ついさっき冒険者となったメイと申します! 家事得意、弓はそれなり、私になにかを守れる力を……、師匠になってくれる人を、募集します!」


 私がそう言い終わり頭を下げると、冒険者たちは一瞬静かになって、それから「おいおい、なに言ってんだ、嬢ちゃん」と呆れたような声を上げた。――まぁ、そうなるよね。


「……とりあえず、無事に登録おめでとう」

「ルイ! ありがとう」


 ざわっと一瞬で辺りの人たちがざわついた。私が首を傾げると、ルイは視線を冒険者たちに向けてから、私の手首を掴んだ。


「ルイ?」

「助けてもらった恩もあるし、仲間に入れてもらうかな、と」

「良いの?」

「うん、しばらくは暇だし。それに……あれだけの弓の腕で『それなり』はないでしょ」


 ひそりと耳元で囁かれた。……追尾する弓、しかも水と風の属性付きを見た人だからね。……それに、ルイが仲間になってくれるのは私にとってもありがたいことだ。彼の強さは本物だと思うから。


「あのぅ」

「は、はい?」


 すっと手を上げる女性と視線が合った。


「わたくしたち、もうすでにパーティを組んでいるのだけれど、それでも良ければ仲間になっても良いかしら?」

「えっ、も、もちろんです!」


 なんと女性からパーティ申請が! 私が目を輝かせてうなずくと、女性はふわりと微笑んでくれた。隣にいる……男性? 女性? が重々しく息を吐いていたのが気になったけれど、味方が増えるのはありがたい、本当に。……そして、周りの冒険者たちがさらにざわめき始めた。


「おいおい、どうなってんだ、あの日から一匹オオカミのルイと、絶対によそのパーティに参加しないふたりが加わったぞ!?」

「よっしゃ賭けるか、いつまでパーティでいられるか!」

「乗った! 三日でどうだ!」

「じゃあオレは一週間だ!」

「うーん、じゃあ一ヶ月!」


 ……人のパーティがいつ解散するかを賭けるのか……すごいな。と他人事に考えている場合じゃなかった。私とルイは声を掛けてきてくれた女性の元に向かい、椅子に座るようにうながされたので、すとんと座った。

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