2章:14歳

第15話

 小鳥のさえずりに目が覚めた。起き上がって、ベッドの上でちょこっと柔軟体操。

 ――今日は特別な日だ。

 窓まで向かい、外の天気を確認する。――快晴だ。まるで、私の旅立ちを祝福してくれているみたいに。身支度を整えて、お父さんの元に向かう。


「お父さん、おはよう!」

「おはよう、メイベル。……似合っているよ、その髪も、服も」

「お父さんのおかげだよ。髪、切ってくれてありがとう。服も……用意してくれてありがとう」


 ふるふると首を横に振ったお父さんに、私は笑みを浮かべた。

 今日の私の格好は、お父さんが用意してくれた、冒険用の服だ。軽くて丈夫なもの。……これも錬金釜で作ったのだから、本当にどういう構造になっているのかがとても気になる。髪も、昨日お父さんが切ってくれた。長かった髪はショートカットになり、なんだか首元が涼しい気がする。


「……本当に、行くのかい?」

「うん。そのために、お金も貯めたし……弓も大分うまくなったんだよ」


 的にも当たるようになり、動く的や小動物も弓で狙えるようになった。……魔物だって、弓で倒したことがある。九年の間に、私はいろいろと成長したのだ。


「そっか、そうだね。それじゃあ、ご飯にしようか。お弁当も作ったから、持って行ってくれ」

「ありがとう。……ねぇ、お父さん」


 椅子に座り、目の前に広がる食事の前に、お父さんに言いたいことがあった。


「――必ず、帰って来るから。その時まで、元気でいてね」

「……ああ、もちろん。ここはメイベルの家なのだから、いつでも帰ってきなさい」


 お父さんは驚いたように目を大きく見開き、それからふっと表情を緩めた。私も微笑んで、それからお父さんと一緒に食事を楽しんだ。だって、帰って来るとはいえ、今日からしばらくの間は会えなくなる。……だから、時間が許す限り、ゆっくりとご飯を食べた。


「……あ、そうだ。メイベル。渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの?」

「うん。この空間収納バッグと、携帯型の錬金釜を……」

「……はい?」


 今、とんでもないこと言わなかった? 私が目を瞬かせている間に、お父さんはごそごそとどこからか取り出して、空間収納バッグとお父さんがいつも使っている錬金釜よりも小さい錬金釜を見せた。……私は思わずお父さんをじっと見る。


「……その、メイベルの旅に役立つんじゃないかと……」


 確かに私は九年の間に錬金術の腕も磨いた。鑑定のおかげでかなり助かっているのよね、錬金……。どれをどう足せばいいのかがわかるから。それってかなり助かるのよね……。

 そして、精霊たちも手伝ってくれることがあって、その時の品質がとっても良いものになってしまったので、慌てて隠した記憶……。どうやら精霊たちの手を借りると、良い品質のものが生み出されるようだ。


「……えっと、ありがとう。大切に使うね」


 私が受け取ると、お父さんはぱぁっと表情を明るくさせた。そして、馬車の時間がやってきた。王都まで向かう馬車が来るのだ。まさか私の誕生日と重なるとはね……。私はまとめておいた荷物を空間収納バッグに入れ、家の外に向かう。馬車に乗り込む時、村のみんなも見送りに来てくれた。お父さんはそっと小袋を取り出して、私に渡した。


「……お父さん?」

「誕生日おめでとう、メイベル。少しでも足しにしてくれ」


 え、という間にお父さんが一歩下がって、御者に「そろそろ行きますよ」と声を掛けられた。私はみんなに向かって頭を下げてから、馬車に乗り込んだ。


「行ってきます!」


 元気よくそう言って、みんなに向けて手を振った。見送りに来てくれたみんな――ロベールが、大きく手を振り返して「行ってらっしゃい!」と叫んだ。他の人たちも、手を振り返してくれた。

 ――ここから、私の冒険が始まるのね。みんなが見えなくなるまで、私はずっと、手を振り続けていた。


「寂しい?」

「悲しい?」

「……寂しくはあるけれど、悲しくはないかな。大丈夫よ、君たちだっていてくれるのだから」


 あの日現れた火の精霊と水の精霊は、よく私の元に現れてはいろんな話をしてくれた。そのおかげで、王都のことについてもちょっとわかった。精霊はどの国にもいるみたいで、精霊同士で情報の交換をしているみたい。小人のような精霊たちが集まって情報交換している姿を想像して和んだ。


「ここから王都までどのくらい?」

「んー、パント村からだと、四日くらいかなぁ?」


 馬車には私ひとりしか乗っていないので、気兼ねなく精霊たちと話せた。とはいえ、御者に聞かれる可能性があるから、出来るだけ小声で話していたけれど。……それにしても、パント村から王都に向かうのってほぼ森の中を走る感じなんだなぁ。流れる景色は見渡す限り森、森、森……。

 途中で他の村から王都に向かう人を乗せたり、降ろしたり、馬車の中が賑やかになったり、ならなかったり。みんないろんな理由で旅をしているんだなぁと、話しを聞いていて思った。

 ――そして、三日目の朝、事件が起こった。

 魔物が馬車を襲ったのだ! あと一日で王都につくというタイミングで!

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