第14話
目を開けると日差しが差し込んでいた。――朝だ。起き上がると身体が鉛のように重かった。なんだ、この重さは……。……そして気付く、私の身体になにかよくわからないものが乗っていることに……!
「え、え、うんっ?」
「起きたー」
「起きた!」
……私の目に、小人? が飛び込んできた。それぞれなんだか着ている服の色が違うけれど……この子たちは一体。私はまだ夢でも見ているのだろうかと頬を引っ張ってみたけど、普通に痛かった。
「……あなたたちは、一体……?」
「火の精霊」
「水の精霊」
「怖くないように、可愛い姿で来たの!」
クルクルと舞うようにその姿を見せつけるかのように動く小人……いや、精霊。……精霊って話せるんだ。……これって、もしかして神さまが私に授けてくださった力のおかげ?
「メイベル、朝ご飯出来たよー」
「は、はーい! えっと、ごめん、後でね?」
「はーい」
手を上げて返事をする精霊たちを見て、私の頭は少しだけ冷静になったように見える。とりあえず、素早く身支度を整えるとお父さんの元へと駆け寄る。温かな朝食がテーブルに並んでいるのを見て、お腹が鳴った。
「おはよう、メイベル」
「おはよう、パパ!」
朝の挨拶をしてから一緒に朝食を食べる。
それからお店の開店準備だ。精霊たちは興味深そうにその作業を見ていた。……というか、私の周りを飛んでいた。羽があるわけでもないのに飛んでいるから、やっぱり精霊なんだろう。……昨日見た光の正体も精霊なのかな?
そんなことを考えつつ、午前中はお店の手伝い、午後からは弓の練習だ。お父さんが「手伝うよ?」と言ってくれたけど、私はそれを断った。精霊たちと話したいし、お店にもコンスタントにお客さんが来ていたから。
お昼ご飯を食べてから、裏庭に向かう。弓と弓矢を持って――……精霊たちに話し掛けた。
「……あの、精霊さんたち。待たせてごめんね、少しお話しできる?」
「待った!」
「いっぱい待った!」
火の精霊と水の精霊が私の周りをクルクル飛ぶ。目で追えなくて思わずくらくらした。
「うぅ……」
めまいがして座り込むと、大丈夫? とばかりに心配そうに眉を下げて顔を覗き込んできた精霊たちに、「だ、だいじょうぶ……」となんとか言葉を出す。
「ええと、それで……あなたたちは精霊、なのよね……?」
「うん!」
「他にもいっぱいいたけど、代表として会いに来たよ!」
火と水の精霊はそう言ってにこにこ笑う。小人が笑っているみたいでとても愛らしい。私の手のひらにふたりとも乗せられそう。そっと手のひらを上にして、合わせてみるとそこに精霊たちがちょこんと乗った。――か、可愛い……っ。
こてんと首を傾げる精霊たちに、こほんと咳払いをしてから問いかけた。
「私に会いに来てくれたの?」
「うん、女神さまがメイベルによろしくねって」
「伝えて欲しいって言われたから!」
「来てあげたの。えらい? えらい?」
小さな子どものように褒められるのを待っている精霊たちを見て、「えらいねぇ」と幼子にするように褒めると、精霊たちは私の手のひらの上で踊っていた。……精霊たちってこんなに可愛いんだ。見えていなかったの、勿体ないなぁ……。……他の人にも見えていたら、ちょっとした騒ぎになりそうな予感もする……。難しいところね。
「メイベルは弓の練習するんでしょ?」
「風の精霊連れてきてあげる!」
「そしたら、百発百中だよ!」
精霊たちはそう言って仲間を呼ぼうとしたので、私は「待って!」と声を掛けた。精霊たちは動きを止めて、「どうしたの?」と首を傾げる。私は眉を下げて首を横に振った。
「気遣ってくれてありがとう。でもね、弓は自分で的に命中させたいの」
確かに風の精霊に頼めば、的に命中するだろう。……でも、それだと私の弓の腕が上がらない。
「どうしても当てなきゃいけないって時にだけ、お願いするよ」
「そうなの?」
「ふぅん、じゃあがんばって!」
私の言葉に納得したのかしていないのか、精霊たちは顔を見合わせてから応援してくれた。
手のひらから精霊たちが飛び立ち、「またね!」と言って消えていった。どうやら本当に伝言をするために来てくれただけのようだ。私は「また遊びに来てね」と手を振った。それから、弓の練習を始める。
練習すればするほど、的に当たりやすくなっている気がする。狙った場所に当てることはまだ難しいけれど、練習を積み重ねていけば、きっと狙った場所に当てられるようになるだろう。こういう地道な努力、嫌いじゃないよ。
……日本では途中から出来なかったことだしね。この世界でメイベルとして、しっかりと地に足をつけて生きて行こうじゃないか。……原作の強制力もないのだったら、本当に自由に生きて良いのだろうし。
私は私が出来る最大限の努力をして、冒険者になって、この村を救う。
やりたいことは定まっているのだから、目標に向かって頑張ろう!
私は気合を入れて、弓の練習を積み重ねていった。
弓の練習もそうだけど、お店の手伝いや錬金術の練習、いろいろと学ぶことが多くて、一年、また一年と過ぎて行った。
……そして、私は……十四歳の誕生日を、あっという間に迎えたのだった。
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