第6話


 今の、名案なのでは? 私は思わずガッツポーズをした。そうよ、冒険者ギルドで仲間を作って、村を助ける手伝いをしてもらうの! もちろん、私もがんばるけれど!


 と、なると……。お父さんに錬金術とか薬のことを教えてもらって、自分でも戦えるようにならなきゃいけない。……戦闘。出来るかな、私に。……ううん、やらなきゃいけない。この村を救うためには。


 幸いにも『メイベル』の身体は健康そのものだ。走り回っても発作が起きることがないし、どこも痛くならない。前世の私だって病気になる前は元気に走り回っていたらしいけど、私の記憶ではほぼ病院で過ごしていた記憶しかない。


「――やれることを、探さないと……」


 ぎゅっと目を閉じてゆっくりと息を吐いた。とりあえず、この村はロベールが旅立った後に滅んでしまうから、その前に旅立とう。……何歳が良いかな。ロベールは十六歳で旅立つ。それより前。……十四歳、くらいかな?


 十四歳くらいなら、王都にひとりで行けるかも!


 お父さんには、錬金術と薬の勉強をもっとしてみたいと伝えてみよう。渋るかもしれないけれど、なんとか説得して……うん、このプランで行こう。


 ……ただ、ひとつ不安があるとすれば……。


「……物語と違うことって、してもいいのかな……?」


 ぽつりと呟いた言葉は、浴室に虚しく吸い込まれていった。


 ――ダメだ、これ以上お湯に浸かっていたらのぼせそう! ざぱっと勢いよく湯船から出て、脱衣所に向かいバスタオルで髪と身体を拭いてからパジャマに着替える。


 十四歳で旅立つとするなら、あと九年。がんばろう。そう決意して、お父さんの元へ向かう。


 私がお風呂に入っている間に夕食の準備をしてくれたみたい。野菜のスープとパン。なんとこれも錬金術で出来るのだから、錬金術とは? とちょっと思ってしまう。


「おなかすいた!」

「じゃあ髪を乾かしてから夕食にしようね」


 こくりとうなずくと、お父さんは私の髪に触れて魔法を使った。そして髪は一瞬で乾いた。


 ドライヤーいらず。これめっちゃ便利な魔法だわ……。


 絶対に習得しないと! そう意気込みながらスープを飲む。優しい味のスープ。……だからどうしてこれが錬金術で作れるの……? 謎に思いながらパクパク食べていると、お父さんが嬉しそうに笑っていた。


「……どうしたの?」

「メイベルがたくさん食べてくれて嬉しいなぁと」


 ……そうだね、お母さんが亡くなってから、あんまり食べてなかったもんね。それこそ偏食ばかりしていたのだ。あのまま続けていたら、病気にでもなりやすい身体になったんじゃないかな……あ、でも最終的には生き残っているから、健康だったのかもしれないけど……。


「……あのね、お父さん。私、王都に行ってみたいの」

「お、王都に!? どうして?」

「えっと、まだ先のことなんだけど……」


 私は湯船に浸かりながら考えていたことをお父さんに伝えた。お父さんは神妙な顔をしながら聞いていた。もちろん、この村が滅んでしまうという情報は伏せて。お父さんは私がそんなことを言いだすとは思わなかったようで、「ちょ、っと待ってね……」と顎に手を掛けて悩み始めた。


「メイベルがお小遣い欲しいって言ったのは、王都に行くため?」


 それもある、とうなずく。


「パパのような錬金術師になりたいっていうのは……お世辞?」


 ふるふると首を左右に振る。


「私、本当にパパのこと尊敬しているよ。……だからね、王都でいろんな人たちと知り合って、いろんなことを学びたいの」


 この村で住んでいるだけではわからないことを、知りたい。そして、王都で味方を見つけたい。


 私の真剣な表情を見て、お父さんはゆっくりと息を吐く。


「王都に行くには確かにお金が必要だけど……、言ってくれたら出したのに」

「それじゃあダメなの!」


 私はテーブルに手を置いて身を乗り出した。お父さんは驚いたように目を丸くして、それから「どうしてだい?」と尋ねて来た。


「私は、自分で稼いだお金を使いたいの!」

「……そ、そう……」


 前世でも稼いだことなんてないから、働くことがどれだけ大変なことなのか理解はしていないと自分で思う。……それでも、王都に向かうための馬車代や初期装備品くらいは自分で用意したい。


「……冒険者になるとして、どんな武器を持つつもりかな?」


 武器……、そういえばそこまでは考えていなかった。冒険者になろうと思ったのもさっきが初めてだったし……。


「……パパは、どんな武器が使えるの?」

「お父さんから習いたい?」


 こくんとうなずく。すると、お父さんはふっと表情を和らげて、「弓かなぁ」と呟いた。


「メイベルでも使えるような弓を見繕わないとね」

「えっ?」

「メイベルの身体は小さいから、それに合ったのをね。お手伝いの他に弓の練習が加わるけど、頑張れるかい?」

「ありがとうパパっ! 私、がんばるよ!」


 ぱぁっと表情を明るくしてそう言うと、お父さんは私の頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でた。


 ……でも、お父さんが弓を使っているところなんて一度も見たことないや……。私が遊びに行っている間に、使っていたのかもしれない。お父さんの弓の腕ってどのくらいなのだろう。ちょっと気になって来た。


「メイベルの弓が出来るまでは、錬金術の勉強しようね」

「うん!」


 元気に返事をして、私は笑顔を浮かべた。

 よーし、がんばるぞーっ!


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