二十六 伝令
現場をひと回りし終えた瀬戸が捜査本部の置かれた会議室に戻ろうとしたところ、隣の資料室から腕がのび、引き込まれた。
「
「……エツさん。戻ってたんですか」
扉は半開だが、部屋は暗い。
腕を解くと、志賀警部は煙草に火をつけ、壁にもたれた。
上司と部下として仲がいいのは他の同僚にも知られているが、くだけた呼び名で呼び合える仲なのは、無流ぐらいしか知らない。
名前で呼んできたということは、個人的な話が必要だということだろう。
「何のためにお前を伝令役にした?」
気だるく煙を細く吐き、流し目でそう問われる。
「切り取り魔はわかりました」
あっさり瀬戸が答えると、志賀はにやりと満足げに笑った。
「ならいい。ご褒美は?」
「二人で温泉」
「――近場なら」
「やった」
連れ立って会議室に入り、資料を手渡す。
「
美術品をトラックで運搬する仕事をしている男だ。
「重要参考人として任意聴取してください。暴れたり逃げたりすることは無いと思いますが……移動中だと確保に少し時間がかかるかも。無線はもう使って大丈夫です。その間に必要な資料をまとめます。僕と警部で聴取できると、早く飲みに行けるんだけどなぁ」
「傷害四件、誘拐未遂一件、誘拐一件、猫の窃盗が七件だ。そんなすぐには終わんねぇだろ」
「誘拐と猫さらいはそれぞれ別件です。登場人物……じゃないや、関係者はほぼ一緒ですけど」
志賀が指示を通している間に、資料を整理する。
「
「多分、ご両親と一緒に自首しに来ます。実行犯ではないので傷害の共謀――臓器売買罪辺りですかね。窃盗は不起訴になるんじゃないかな。更生の見込みはあるので、まあ、三十歳になる前には出られるでしょう」
「
「大丈夫だと思います。無流さんに任せました。欲を言えば渋井だけは、被害者が少ない内に捕まえたかったな」
瀬戸がそう言うと、志賀は伸びをしてから、瀬戸の背中を軽く叩いた。
「悪いのはそいつだ」
「そうですね」
「解説は長くなるか?」
「あなた相手ならすぐ済みます」
「じゃあ、始めてくれ」
瀬戸は頷いて、壁に貼った事件現場の地図の前に立った。
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