十一 襲撃
飯田和美の師事する
啓が画室高梨から出てきたところに通りかかったのをいいことに、和美はどうにか軽く驚かせてやろうと考えながら、少し離れた物陰を伝い、啓の後をつけた。
電柱に付いた街灯はまばらで、ひと気はない。切り取り魔の被害があった道ではないが、途中、似た条件の真っ暗な道がある。
そこに啓が入った瞬間「うわっ」と小さな声が聞こえ、和美は急いで追いかけた。
駆け込んだ道には長い外套か、マントのような上着を着て、つばの広い黒い帽子、目隠しを着けた人物がいた。
十中八九、切り取り魔に違いない。
薬品で気を失わせ連れ去り、拘束して、目当ての部位を切り取る手口は、無流から聞いている。
「啓!」
気を失って倒れたと思われる啓を持ち上げようとしているのが見えて、怯む間もなく大きな声で叫ぶ。不審人物は驚いて、啓を取り落としたが、啓は目覚めない。
とりあえず不審人物を追いかけ、肩掛け鞄を振り回し、頭を狙って投げつける。
背丈は和美と同じか、少し大きい。おそらく男だろう。
動きが止まった襟元をつかみ、顔を見ようと引き寄せたところ、口元を見て驚いた。
「わっ」
不審人物の口には、犬歯を更に尖らせたような、長い牙が上下ともに生えていた。
思わず怯んだ和美は、生け垣に突き飛ばされ、不審人物に逃げられてしまった。
「つぅ……」
突き出した枝で頬が切れ、顔が痛い。
地面に尻餅をついたかたちで顔を押さえると、後ろから啓の呻き声が微かに聞こえた。
「啓!大丈夫か」
和美は必死に啓に声をかけながら、騒ぎに気付いて出てきた近隣住民に、警察に通報するよう頼んだ。
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