第216話
俺たちは警戒しながら、峠を越えて盆地の街へと入った。特に襲撃される事も無く、別動隊はいない様だ。良かった、一安心。俺は戦闘狂じゃないから、戦いたい訳じゃ無い。余計なリスクは無い方が良い。
「遅くなったけど、無事に街に入れて良かったわね。」
「全くだよ。何者だか知らないけど、余計な事しやがって。」
「そう言えば、私たちが今晩泊まる宿には大きなお風呂があるんでしょ?」
「そうだよ。温泉だよ。」
今まではテレーズ殿下とは別の宿だったのだけど、今晩からは同じ宿に泊まる様にと言われた。襲撃された事で守りを固めようと言う事だろう。アンちゃんはともかく、俺やり過ぎちゃったかな?でも、アンちゃんがテレーズ殿下と同じ宿に泊まるなら、必然的に俺も同じ宿になるのか。
「温泉、楽しみだなぁ。」
そう、ここには温泉があるんだよ。おんせん。露天風呂とかあるのかなぁ。露天風呂があったら、湯に浸かりながら一杯なんてのも良いな。あ、良い子のみんなは飲み過ぎちゃったり、泥酔して温泉に入ったりしちゃ駄目だからね。こう言うのは風情を楽しむものだよ。
「露天風呂あるかなぁ。」
「なあに、露天風呂って?」
「屋外に池みたいなお風呂を作って、そこに浸かるんだよ。」
「え、外で?それじゃあ、みんな服を着たまま入るの?」
「いや、みんな裸だよ。」
この世界にはその様な風習は無いのだろう。アンちゃんには「この変質者!」みたいな目で見られてしまった。えーと、
「まあ、ジローだから仕方ないか。でも、私以外にそんな話しちゃ駄目よ。」
アウチ、アンちゃんに釘を刺されてしまった。俺の魔法より強力かも知れない。
*****
「よし、お前達も交代で温泉に入れ。」
アンドレ隊長から許可が出た。やったー、いよいよ温泉だー。温泉なんて入るの久しぶりだなぁ。楽しみ、楽しみ。
「おいジロー。お前何処に行く?」
「いやだなあ、温泉に入るに決まってるじゃないですか。」
「お前左腕に怪我してるだろ。温泉なんかに浸かったら駄目だろう。せいぜい体を拭くぐらいにしておけ。」
うむむむ、そう言えば俺は怪我をしている設定だった。実はこっそり使った回復魔法でもう治っているのだけど、回復魔法は秘密だからね。
「怪我人グループは入浴はお預けだ。」
おお同士よ。怪我をした兵士も温泉には入れない様だ。みなさんは実際に怪我されているので、温泉に入って傷口が染みる様な事はしたいとは思ってないのかも知れないが。
「折角の温泉に入れないなんて。仕方ない、酒飲んで寝よう。」
「酒も控えろよ。傷口の血が止まらなくなるぞ。」
「そんなぁ・・・。」
俺の楽しみを悉く奪った奴は誰だ。帝国か?帝国軍なのか?今度会ったら承知しないからな。その晩、俺は大人しく寝た。
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