第141話

 昼間市場をぶらついている時にも、俺はマメに聞き込みをしていた。いつもいい加減そうに振舞っていても、俺はやる時にはやる男なのだ。この街ではマンスモの煮込み料理が名物らしい。ついでに美味いと評判の店も聞き出しておいた。情報収集は完璧だ。


「おいしいわねぇ。この料理。」

「この街の名物料理だからね。」

「こんな大きな塊のお肉を豆と一緒にトマト味で煮込むなんて。ヘルツ王国じゃ絶対食べられない料理ね。」

「この国では、わざわざ食用としてマンスモを飼っているらしいよ。」


 アンちゃんの喜ぶ顔が見たい、餌付けに熱心なおっさんだ。一仕事やり終えた俺は達成感に浸った。


「それで明日からどうする?また市場を見て回るの?」

「仮にも秘薬って言う位だから、市場で手に入れば世話無いね。」


 コーラス様からお聞きした情報から、果物を扱っている店をそれとなく覗いて見た。市場をぐるぐる回っても、それらしき物を扱っている店は無かった。


「明日はこの街の冒険者組合と商業組合に行って見ようと思うんだ。上手くしたらドナルドが噂を聞いたっていう冒険者チームに会えるかもしれないし。会えなくても他に知っている人がいるかもしれないからね。」


 暫くもぐもぐして飲み込んでから『うん』とだけ返事が返って来た。料理は熱いうちに食べた方が美味しいとは思うけど、料理は逃げないからね。アンちゃん。


 翌日、俺たちは先ず冒険者組合に行って見た。他の国の組合事務所に入るのは初めてなのでちょっと緊張したが、この国にもヒャッハーな人は居ない様だ。良かった。


 ただ、ドナルドが会ったという冒険者チームも留守にしているとの事だった。


「積荷の番人ですか。護衛任務であと半月は戻って来ないと思います。」


 受付のお姉さんからの回答である。ファラド王国でも中二病の発生は見られない様だ。


「他に迷いの森に詳しい人は居ませんか?」

「生憎王都には居ないと思います。」


 ヘルツ王国と同じで、王都の組合事務所に登録している冒険者の人数は少ない様だ。この辺りはどの国でも同じみたいだね。張り出された依頼も商隊の護衛が殆どだったけど、エルフの里に行く依頼は無かった。


「ただ、迷いの森に接しているタンカレー侯爵領なら事情を知っている者がいるかも知れません。」


 俺たちはお姉さんにお礼を言って、今度は商業組合に向かった。エルフの里との交易状況を知るためだ。


「エルフの里ですか?キケアタンまで来る商隊は居ませんね。我が国とはタンカレー侯爵領と細々取引がある程度ですよ。」


 忙しそうにしている商業組合のお姉さんを捕まえて、やっと聞き出せた情報だ。まあ、俺たち商業組合に入ってないし、何なら外国から来てるし。これでも親切に教えて貰えた方だろう。邪魔してごめんなさいね、お姉さん。お仕事頑張って下さい。


 奇麗なお姉さんを見送って心の中で応援していたら、アンちゃんに睨まれた。浮気なんかじゃないです、アンちゃん。冤罪です。

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