第139話

 やっとファラド王国の王都キケアタンまで辿り着いた。毎日ずっとミュエーに乗りっぱなしだったから足腰が痛い。アンちゃんには鍛え方が足りないって言われたけど、一般人は長期間ミュエーに乗ったりしないからね。後で自分に回復魔法を掛けておこう。これが無かったら、俺に長旅は無理だ。


「二人部屋は空いてますか?」

「生憎二人部屋は満室でございます。別々のお部屋ならご用意できますが。」

「じゃあ、それで頼む。」


 アンちゃんは二人部屋をご所望だった様だが、一人部屋しか空いてないなら仕方が無い。俺が一人部屋二部屋で依頼すると、アンちゃんに睨まれてしまった。そんなに一緒の部屋が良かったの?未だ朝晩は冷え込むから一緒の方が暖かいとか考えてるのかな。目が覚めると偶に抱き枕にされている時もあるし。


 荷を解いて俺の部屋に集合した俺とアンちゃん。ベッドの大きさなんか見てるけど、さすがにここに二人は無理だからね。


「いつもより遠くまで来たから疲れたよ。今日、明日はゆっくりしたいのだけど良いかい?」

「だから日頃から鍛えなさいって言ってるのに。」


 俺だってスクワットとかやってみたけど、3日で止めた根性無しのおっさんです。元から近接戦闘はアンちゃんの担当で、俺は後衛の分担だったはず。そう自分に言い聞かせて納得する事にした。そんなに激しく運動したら、おっさん壊れちゃう。


「また変な事考えてるわね?まあいいわ。それでどうするの?」


 恐るべきは女の感。コーラス様、本当に加護はお与えになっていないのですよね?


「別に一日中部屋に閉じこもる訳じゃないよ。まあ、今日は早めに休んで、明日はこの街キケアタンを見て回るくらいかな。何か美味しい物があるかも知れないし。」

「っ。そ、そうね。それが良いと思うわ。」


 食べ物で釣る作戦成功である。急いで来た道中は保存食中心の食事だったのだから、俺だって美味いものが食べたい。


「ここは何が美味しいのかしら。あ、折角だから名物料理とか有ったら食べてみようよ。」


 この世界には旅行のパンフレットなんて無いからね。遠い土地、ましてや外国の事なんて知らなくて当たり前だ。旅行記なんて書いたら売れるかな?いや駄目だな。印刷技術なんて無いし、第一普通の人々は旅行なんてしないからな。需要がないよ。


 国王陛下や宰相閣下には報告書を出す義務がある。だけど、キケアタンの○○料理が美味しかったです、なんて報告書出したらどんな顔をされるだろう。


 それでも他国へ調査でやって来たのだから、気づいた事はメモしておかないとね。もしかしたら料理にも興味を持たれるかも知れないけど。

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