第132話

 誰がどの様に説得したのかは知らないが、2の日と5の日がエリック殿下とギルバート殿下、7の日がエマ殿下の授業日に決まった。ホント大丈夫?大丈夫だよね?またエマ姫様に泣かれるの嫌だよ、俺。


 エリック殿下とギルバート殿下は少しずつだが上達の兆しが見える。エリック殿下は噴出する水の高さが少し高くなったし、ギルバート殿下は細かい紙片なら”少しだけ”飛ばす事が出来る様になった。相変わらず3兄妹の中で一番魔法に愛されていないギルバート殿下である。でもちょっとずつ伸びてますから。頑張りましょうね、殿下。


 一方、今までと打って変わって元気が無いのがエマ殿下だ。ギルバート殿下の分まで魔法の才能を持って来ちゃったんじゃないの?と言うくらいに魔法適性の高いお姫様なのだが、最近元気が無い。きっと礼儀作法の時間を増やされてしまったに違いない。だから言ったじゃないですか。爺は知りませんよ、と。


「ジロー。わ、わたくしはあの蝶を飛ばすまほうがうまく使えないの。教えてちょ・・・いえ、教えていただけないかしら。」


 何か言葉遣いもちょっと変だし、こっちまで調子狂っちゃうな。これも礼儀作法の練習と思ってお相手しよう。


「ではエマ殿下。魔法をお見せ下さいますか。」


 すると今まで壁際に控えていたメイドさんがエマ姫に何か手渡した。蝶の形に切り抜いた紙の様だ。姫様の頭の中では蝶々が舞っているイメージなのですね。


「ジロー。てつだって下さい。」


 そう言ってエマ姫は紙の蝶を俺に手渡した。ああ、なるべく高い位置から落として欲しいと言う事だろう。俺はエマ姫の傍らに立ち、腕を伸ばしてなるべく高い位置で手から離した。


「では。」


 そう言ってエマ姫は風魔法を使う。すると紙の蝶は大きく飛ばされる。これを落とすまいと反対方向から風を送る姫様。紙の蝶はバドミントンのシャトルよろしく、あっちへ行ったりこっちへ飛んだり忙しく動き回っている。


「ああっ。」


 最後はラケットが届かなかったシャトルの様に、紙の蝶は地面に落ちてしまった。悔しそうに蝶々を見つめるエマ姫様。 


「エマ殿下。殿下はもう少し風の勢いを弱められた方が良いと思います。」

「わたくしもそう思っているのですわ。でも、じょうずにできなくて。」


 難しい問題だなあ。風、つまり空気は目に見えないから中々イメージし難いんだよね。だから最初は紙吹雪なんていう目に見える様な工夫をしたのだし。


「エマ殿下。もう一度紙吹雪の練習を致しましょう。今度は遠くへ飛ばすのではなく、なるべく近くに落とす様に風を送ってみて下さい。」


 エマ姫は着火の魔法では炎を大きくしたり小さくしたりする事が出来た。同じ要領で強い風もそよ風も起こせる筈なのだが。この練習で何か掴んでくれる事を期待してます。魔法大好きっ娘の適性は優れているのだから。

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