第133話

 私はジローと言うBランク冒険者に魔法を教わっている。エリック兄上と妹のエマも一緒だ。悔しい事に、私たち兄妹の中で一番魔法の才に秀でているのは、妹のエマだった。エマは今年3歳になり漸く魔法が使える様になったばかりだ。それだと言うのに一番上達が早いのだ。


 エマはジローが出す課題を易々と熟していく。全く驚きだ。去年まではエリック兄上よりは私の方が魔法が上手く使えていた。しかしジローが教える様になってからエリック兄上の腕前も上達し、いつしか私が一番下になってしまった。このままでは不味い。どうにかしなければ。


 エリック兄上は王位継承権1位だ。このまま順当に行けば次期国王は兄上だろう。そうなれば、もしヘルツ王国が戦争になった場合、国王軍を率いて行くのは私の役目だ。まさか妹のエマを戦場に立たせる訳にはいかない。問題なのは王家が勇者の末裔と言いう事だ。まさか軍を率いる者が魔法もろくに使えない王族では、兵卒の士気にかかわる。何故コーラス様は私に魔法の才を与えて下さらなかったのか。


*****


「ジロー。正直に話してくれ。私には魔法の才能が無いのだろうか?」


 今日は授業がある日では無いが、ギルバート殿下に呼び出されて登城している。何かあったのかな?こんな事は初めてだ。


 お目通りして早々、こじんまりとした部屋に通された。護衛の騎士には部屋の外で待つようにと言われたため、室内には殿下と俺の二人きりである。そこで飛び出したのが先ほどのお言葉だ。随分とお悩みのご様子で、いきなり重たい相談を受けたおっさんである。


「殿下は水、風、土の3元素に適性がお有りなのですから、決して才能が無いなどという事はございませんよ。」

「本当の事を言ってくれ。私は兄妹の中で一番魔法が使えていないじゃないか。」


 何か思い詰めちゃってますよ、この殿下。もう少し自信を持って頂く様に話を持って行かないと。


「殿下も風魔法が使える様になったではありませんか。殿下はまだお若い。これから研鑽を積めば、まだ伸びしろはいくらでもあります。」

「エマと比べては恥ずかしい限りだ。あの様な弱弱しい魔法では駄目なんだ。」


 何だろう。兄妹の中でいじめとか有るのかな?いや、あのエマ姫様に限ってそれは無いな。


「エリック兄上が王位に就かれた暁には、私は将軍として国軍を指揮する事になるだろう。その様な者が魔法もろくに使えない者では困るのだ。」

「それでは剣術の鍛錬をされれば宜しいのではないでしょうか。」

「私の家系は勇者の血筋だから・・・。」


 大人だったら酒飲んで愚痴聞いて慰める事も出来るんだが、相手はお子様だから果汁水飲んで、じゃ締まらないしなぁ。悪いけどメンタルケアは俺の担当外だよ。またまた親御さんと相談だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る