第130話

 いよいよ魔法大好きっエマ殿下の登場である。正直俺と同じような匂いがするので心配だ。えーと、酒臭いと言う意味じゃないよ。何をやらかすのか心配って事ね。


「はい!はい!次はわたしの番だからね。ジロー、みてみて。」


 もう満面の笑みを浮かべて走って来る。それはもう、仔犬がしっぽをブンブン振るが如く、猫がしっぽをぴーんと立てるが如く、喜び勇んでまっしぐらである。まあ、懐かれていると思えばそれは嬉しい事なのだが。


 これに合わせて顔色が優れないのがお付きのメイドさんだ。きっと魔法禁止の間、空いた時間で行儀作法のお勉強をさせられたのだろう。最初のお言葉こそその成果が見られたが、すでに元通りだ。それはもう潔いくらい頭の中から抜け落ちていらっしゃるご様子。メイドさん、俺を睨まないで。俺にも制御不能です。


「じゃあね、風まほうからやるね。」


 そう言うや否や、エマ姫の手元からやや強めの風が吹き出す。風はアンちゃんの手のひらに載せた紙切れを舞い上がらせ、見事な紙吹雪の完成だ。


「お上手です。エマ殿下。」

「次は水まほうをやるからみててよ、ジロー。」


 エマ姫が手のひらを上にすると、そこから水が噴き上がる。水量こそエリック殿下に及ばないものの、水柱の高さは兄殿下に勝るとも劣らないものだった。


「素晴らしい上達振りです。エマ殿下。」


 今度はこれらを見ていた兄殿下お二人の顔色が悪くなる。末の妹が易々と魔法を使いこなすのをみて自信喪失と言った感じだろうか。きっと、『お兄さま、みてみて!』とかやっちゃったんだろう。エマ姫には全く悪気が無いので余計始末が悪い。兄殿下お二人の顔色も納得の家庭教師である。先の兄殿下方の発言は、これを見ての事だったのだろう。


 久しぶりに魔法を使えて至極ご満悦のエマ殿下。さて今後はどうしたものか。一介の冒険者の俺の判断で決めて良い物じゃないだろう。教育方針は、やはり親御さんに決めて頂かないとな。決めた、そうしよう。


「ジロー。また新しいまほうおしえて。」


 エマ姫様はグイグイ来る。殿下方をチラッと見ると、おいまだやるのか?見たいなお顔をされているし、壁際に控えているメイドさんは小さく顔を横に振っている。それはもう首を痛めそうなくらいの勢いだ。


「お言葉ですが、エマ殿下。新しい魔法を覚えるのも重要ですが、今使える魔法を繰り返し練習するのも大切です。暫く魔法から離れていらっしゃったとお聞きしておりますので、先ずは復習から始められたら宜しいかと存じます。」


 兄殿下もお付きのメイドさんもこの位なら許してくれるだろう。そう思っての提案である。エマ殿下としては不服な様で、何か泣き出しそうな雰囲気だ。姫様を泣かせたと言って、不敬罪で捕まったりしないよね?

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