第129話

 俺たちの任地はここロルマジア王都だ。だがロルマジア周辺で冒険者がする様な仕事は無い。という事で王宮から組合に発注されている仕事。それが魔法の家庭教師だ。今日はそのカテキョの日なのだ。それも暫く間が空いてからの再開である。生徒さん達はいったいどの様な成長を見せてくれるのやら。


 いつもの場所石造りの建物でお待ちしていると、エリック殿下、ギルバート殿下、エマ殿下の3名の生徒さんが入って来られた。


「ひさしぶりですね、ジロー。また会えてうれしく思います。」


 お、エマ殿下。魔法以外のお勉強もちゃんとされていた様ですね。安心しました。


「お父さまとお母さまから、ジローのいるところでならまほうを使うおゆるしをいただけました。」


 エマ殿下はもうそれは満面の笑みを湛えていらっしゃる。え、姫様今まで魔法禁止だったの?いったい何をやらかしちゃったんだろう、この娘は。知らない方が幸せな事も多い世の中、聞かないでおこう。


「では、以前の復習から行いたいと思います。」


 エリック殿下は水魔法、ギルバート殿下とエマ殿下は風魔法の練習だ。エリック殿下は真面目な性格の様で、コツコツと練習された様だ。その手からは5cmほどの水柱が噴き上がっていた。


「毎日欠かさず練習してやっとこの程度だ。お前の魔法の威力とは雲泥の差だな。」


 相変わらず自己評価の低い王子様だ。家庭教師としてはフォローしないとね。


「殿下。あの様な事件があったにも関わらず、短時間で噴水のイメージを掴み取ったのです。それは素晴らしい事だと思います。」

「そうだろうか?」


 殿下はちょっと嬉しそうな表情をされた。それはそれで結構なのですが、またお召し物が水で濡れておりますが大丈夫なのでしょうか。小心者の家庭教師はそちらの方が心配です。


 続いてギルバート殿下の風魔法だ。そよそよとそよ風が吹くが紙吹雪が舞うほどの風力は無い。無情にも紙切れはじっとしたままだ。どうもこちらの殿下は魔法よりも剣士向きなのかもしれないな。


「ギルバート殿下。殿下はそよ風は起こせているので、紙切れをもっと細かい物にした方が宜しいかと思います。風は目に見えませんからイメージを掴むのが難しいもの。細かい紙切れでも舞い散ればイメージし易いのではと思います。」

「もっと細かい紙を使えと言うのか。」

「その方が風に舞い易いので。」

「分かった。その様にしてみる。」


 負けず嫌いな性格と思しき殿下は、悔しそうに俯いた。魔法には適性があるのだし、別に試験がある訳でもない個人授業。もしかしてエマ姫と張り合っているのだろうか。妹に出来て兄の自分には出来ない、とか。そう言うのは無駄だから止めた方が良いと思いますよ。特にエマ姫は魔法大好きっ娘だし。


 エマ姫だって、剣を渡されたらうちのアンちゃん見たいには扱えないだろうしね。

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