第126話
折角宰相閣下と話をしているのだから、こちらからも一つお願いをしてみよう。
「私共からも一つお願いがございます。」
「何かな?」
「先ほど私とアンナが婚約した事をお伝え致しました。そこで、アンナの剣の修行に目途が付きました暁には、一時ロルマジアを離れるお許しを頂きたいのです。」
「新婚旅行にでも行こうと言うのか?」
「似た様なものでございます。アンナの実家に行って結婚を認めてもらう必要がありまして・・・。」
俺は汗をかきかき説明した。ちょっと気恥ずかしい。
「そうか。お前たちは親同士が決めた許嫁では無いのだな。大変だな、ジロー。」
大変だな、頑張れよ。見たいな顔をして俺を見て笑っている。どうせこの人は、『お父さん、お嬢さんを僕に下さい』何て言った事無いんだろうなぁ。今から気が重くなって来た。
「ロルマジアを離れる時期につきましては、またその時にご相談させて頂きたいと思います。」
*****
本日は時間も遅くなったので、騎士団に寄る事も無く宿屋へご帰宅。と言う訳もあって、今日はフレッド隊長と顔を合わせる事は無かった。待ち合わせの時は城門で、とアンちゃんと約束しているので会う確率は低いと願いたい。
「またロルマジアに戻って来て、前と同じ生活ね。」
「俺は構わないんだけど、アンちゃんの修行はこれで良かったの?」
「大丈夫よ。未だ教えを請いに行ってない道場も沢山あるし・・・。」
ちょっと言い淀んでから、アンちゃんは改めて俺の方へ体を向け直した。
「実はまだレイウス流の道場には行ってないの。」
「レイウス流って言ったらアンちゃんの流派でしょ?一番最初に行ったものとばかり思ってたよ。」
「そうなんだけど、ちょっと勇気が足りないって言うか、気が乗らないって言うか。」
ヘルツ王国のレイウス流と、アンちゃんの故郷カンデラ王国のレイウス流。やはり江戸柳生と尾張柳生か?
「やっぱり心細いから、行く時はジローも一緒に来て。お願い。」
許嫁の頼みならついて行く事に吝かではないが、果し合いするわけじゃ無いよね。アンちゃんが腕の一本、いや指一本でも切り落とされたりしたら、躊躇なく回復魔法を使っちゃうよ。そしたら俺は、奇跡の人としてお城でご歓待と言う名の軟禁生活だな。エマ姫様との結婚生活も現実味を帯びて来るかも。
「行く、行くよ。絶対行く。だからアンちゃんも一人で行っちゃ駄目だからね。」
俺が前のめりで答えると、過剰な反応にちょっとびっくりした様だが
アンちゃんはあまり事情を話したがらない様だ。となると別の所から事情を探らないとね。剣の流派に詳しい知り合いと言ったら、やっぱりあの人になるんだよなぁ。
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