第91話
下城途中、俺はアンちゃんと別れてケネスの武器屋へ寄った。丁度カウンターにいたケネスが声をかけて来る。
「よお、久しぶりじゃねえか。どんな剣を打つか決まったかい?」
「いやまだ決まってないんだが・・・。それより、今度拠点をメレカオンに移す事にしたんだ。」
「メレカオンだと~!俺の
「まあ、こっちにも色々事情があってね。」
ドワーフ自治領はテスラ王国のすぐ近くだ。そこからやって来たケネスが疑われても何も不思議はない。きっと根掘り葉掘り聞かれたのだろう。それ以上何も聞いてこなかった。
「なんだ、久々に俺が打ってやろうと思ったんだけどな。どうせ領都のラジアンにも行くんだろう?俺の師匠を紹介してやるよ。ちょっと待ってろ。」
ケネスは一旦奥に引っ込むと、紹介状を書いて来てくれた。
「これをラジアンのヨーゼフっていう鍛冶屋に渡してくれ。それが俺の師匠だ。」
「ここで打ってくれるもんだとばかり思てたよ。」
「バカ言え。こんな街中で鍛冶仕事なんて出来るかよ。回り中から騒音で苦情が来るぞ。ここで出来るのはせいぜい刃を研ぐくらいなもんだ。」
それもそうだな。王都は大きな街だとは言え人口も多い。人口密度が高いのだ。家々も密集して建てられている。窓から幼馴染が入って来るのかな?
俺はお礼の意味を込めてブランデーの甕をもう一つ渡した。その時のケネスの嬉しそうな顔ったらもう。
翌日アンちゃんと今後の予定について話し合った。宰相閣下からはなるべく早く出立して欲しいと申し使っている。必要な物を今日中に揃えて、明朝出発する事にした。メレカオンまでならミュエーの足で4,5日と言う所だ。
*****
途中特に何事もなく、俺たちはメレカオンの街へ到着した。先ずは組合事務所へ行って登録しないとね。
「この街に拠点を移す事になったので手続きを頼みたい。」
俺が受付のお姉さんに話しかけると、Bランクのプレートを見たお姉さんは直ぐに納得した様だ。
「ロルマジアから連絡は受けています。エマ姫様を暴漢から救ったアンナさんですよね。ご活躍は聞いてます。さ、こちらへどうぞ。」
組合長室に案内される様なので俺もついて行こうとすると、
「あ、アンナさんと組んでいて偶々Bランクに上がった荷物持ちの方ですね。まあ荷物持ちの方も今後の予定は知っておいた方が良いと思いますので、後ろに付いて来て下さい。」
俺は今まで有名にはなりたくないと思って活動して来た。その甲斐あって、このメレカオンまでは俺の悪目立ちは伝わっていない様だ。それは俺の目標が達成されている事で喜ばしい事のはずなんだが、この心のモヤモヤは何なんだ。
何かひとこと言ってやりたい気持ちをグッと抑えて、俺は後について行った。
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