第92話
「ようこそ、メレカオンの街へ。俺が組合長のアントニーだ。」
「俺はジロー。こっちはアンナだ。宜しく頼む。」
「なんだってこんな街に高ランクの冒険者が派遣されて来るんだ?」
「理由は俺たちも聞きたいね。なんたって任地は国のお偉いさんが決める事だからな。」
「それもそうか。」
お互いぶっきらぼうな挨拶を交わす。別に喧嘩を売ってる訳じゃないんだ。
俺たちはこの街に来るに当たり、宰相閣下より幾つか気を付ける点をレクチャーされた。そのうちの一つがこの冒険者組合って訳だ。王都では組合内に内通者が居たからな。ここにも居る可能性が高い。
「暫くの間はこの街の周りの状況確認をするつもりだ。あとはドワーフ自治領にも行って見ようと思っている。」
「ドワーフは頑固な奴が多いからな。それに腕っぷしも強い。問題起こすなよ。」
「分かってますよ。」
こんな簡単な会話で組合長との顔合わせは終わった。
「ねえ、あんな挨拶で良かったの?」
「まあ良いんじゃないの。今のところ、誰が信用できるかも分からないんだし。」
事務所から出て、俺たちはミュエーをひきながら宿屋へと向かった。
「明日はこの街の領主様に面会の申込みをしなきゃならないのよね。」
「俺はこんな面倒な仕事は嫌いだよ。」
この街の領主はタリスカー伯爵。当然この人も容疑者の一人だ。俺とアンちゃんはたった二人でアウエーへ乗り込んで来た訳だ。特別手当付を付けて欲しい位だ。こう言う日は酒飲んでさっさと寝ちまうに限る。
*****
「ジローと申します。こちらに控えているのがアンナにございます。Bランク冒険者の務めとして、宰相閣下より派遣されて参りました。どうぞ良しなにお願いいたします。」
「宰相閣下よりの書状は拝見した。まあ大した仕事は無いと思うが励んでくれ。下がって宜しい。」
お貴族様との面談は案外すんなり終わった。宰相閣下からの手紙に何て書いてあったのかがちょっと気になるが、どうせ大した事は書かれていないだろう。
「アンちゃん。未だ時間もあるし、街の周りを回ってみようか。」
「賛成。森とか畑とか、どんな地形になっているかをざっと見た方が良いわね。」
俺たちはミュエーを人が歩くくらいの速さで走らせて街の周りを観察した。大雑把に言って、テスラ王国方面は森となっており、反対側に畑が広がっている。明確に国境線を引くことが難しいから、森は緩衝地帯って言う感じだな。
因みに、俺たち冒険者は国境を越えても問題はない。基本的には国に縛られている訳では無いからだ。俺とアンちゃんは準公務員だけどね。
「あの街道を行くとドワーフ自治領か。行って見たいなぁ。」
「焦らなくてもそのうち行く事になるわよ。」
今日の所は宿へ帰る事にした。
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