第83話

 俺は宿の部屋に着くと、直ぐにビールを3杯一気に呷ってベッドに身を投げ出した。


「あー、疲れたー。」

「あら帰って来たの。じゃあ一緒にご飯食べようよ。」


 アンちゃんが部屋に入って来た。アンちゃん、いくらおっさんの部屋だからって、ノックぐらいした方が良いと思うよ。俺がノックしないでアンちゃんの部屋にいきなり入ったらどうなるか、ちょっと想像したけど怖い事になりそうなので止めた。


「やっぱりこの宿のご飯は美味しいわねー。」

「まあ、夜は食堂も兼ねてるからね。組合のお勧めだし。」

「そう思うとリンキの宿の食事は物足りなかったな。」

「戦争前でもの不足だったんだから仕方ないさ。」


 ここ最近アンちゃんと別行動が多いから、貴重なふれあいの場である。いつ見ても美味しそうに食べるね、この子。


「そう言えば、3歳くらいの小さな女の子ってどうやったらご機嫌取れるか分かるか?」


 俺はエマ王女の名前を伏せて聞いてみた。


「まさかジロー、そんな趣味が・・・」

「違う違う、違うって。」


 俺は小声でアンちゃんに事情を説明した。こんな事大声で説明できないよ。


「うーん、私には男兄弟しかいないし。うちの家は門下生の男ばかりだったから良く分らないわ。」


 きっとアンちゃんも駄々こねてた方なんだろうな、と思ったが黙っておいた。余計な事は言わない方が世の中上手く回るんだよ。


 魔法の練習の後で、エマ殿下の機嫌を良くする方法をエマ殿下付きのメイドさんにそっと聞いてみた。


「魔法を見せて差し上げる事です。」


だそうです。

 陛下。お約束ですから魔法はお教え致します。ですが、それ以外の事は私責任取れませんからね。今度宰相閣下あたりからそっと伝えて頂こう。他のお勉強もしっかりお願いしますね、姫様。


*****


 そして翌日。今日は休みだ。登城しなくていい日だ。ベッドでゴロゴロしていたらドアがノックされた。


「ジロー、入るわよ。」

「どうぞ」


 昨夜酒飲みながら、ノックせずに異性の部屋に入るのはイカンとか、もう少し服装にも気を使った方がイイとか、淑女とは・・・とかくだを巻いたのだ。まあ俺は神様印の肝臓のおかげでほろ酔い以上にはならないのだが。


 その時は酔っ払いのたわ言と、ハイハイと聞き流していた様子のアンちゃんだが、今朝はちゃんとノックしてから入って来た。なんだかんだ言って、アンちゃんは素直で良い子だ。


「で、今日はどうする?一緒に行く?」

「いや、ちょっと行くところがあってさ。」

「なんか怪しい。」

「買い物に行くだけだよ。」


 勿論アンちゃんと一緒に行きたいのは山々だが、おれは昨日の武器屋に行きたかったのだ。勿論短剣も買おうとは思っているけど、ドワーフだよ、ドワーフ。良い飲み友達が出来そうじゃない。

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