第81話
甕の蓋を開けて指でちょっと舐めてみた店主は、驚いて目を丸くした。
「お前、この酒は・・・。俺の名前はケネスって言うんだ。是非また来てくれよな。」
俺だってもっとこの店に居たかったが、登城の時間が迫ってるからね。でも
*****
城門で書付を見せて待っていると直ぐに迎えの人が来た。いつも通り迷路の様な廊下を通って行くと、何時もとは違い庭へ出て進んでいく。ついた先は石造りの建物だった。
きれいにカットされた直方体の石で組まれた建物は、縦横30mくらいある2階建てだ。大きいなあ。華美な装飾は無いが、さすが王家の建物と言った感じだ。どれだけ石工達に無理させたの、陛下。きっと姫様あたりに嫌われない様に、大特急で工事させたんだろうね。
中に通されるとがらんとした部屋で、壁際に申し訳程度に机と椅子(これは流石に木製。石だと冷たいからね。)がある位だ。床は僅かに傾斜が付いていて、水魔法で濡れても排水される様にしたとか。石工の皆さん、益々持って申し訳けないです。
「おおジロー、待っておったぞ。」
2階から国王陛下はじめ王族の方々が下りて来た。え、俺遅刻してないよね?王族の方々を待たせたなんて事したら
「出来たばかりのこの建物を見て回っていたんじゃよ。」
特に俺が遅刻したと言う訳では無いらしい。イヤな汗かいちゃったじゃないですか、陛下。
「1階は見ての通り殺風景なつくりだが、2階はそれなりにくつろげる部屋になっておるぞ。どうだジロー。ここに住まんか?」
え、何言い出すの陛下。ここ王城の中でも王族のプライベート空間ですよね。こんな所に住んだら心安らかにぐうたら生活出来ないじゃん。絶対に嫌だ、と丁重にお断りしました。
陛下と俺のやり取りを聞いていたエマ殿下が泣きそうになりながらふくれっ面になった。エマ殿下、あなたはお姫様なんだからそんなお顔をしては駄目でしょう。
お側に控えている以上、王族方の話し声も聞こえてきてしまう。盗み聞きしてる訳じゃないんですよ。話の内容からすると、エマ姫は行儀作法のお稽古よりも魔法の練習の方が好きらしい。
と言うか、好きになったと言うべきか。
思えば最初の練習の時も一番最初に火魔法を上手く操る事が出来る様になったし、飲水の魔法も直ぐに出来た。それで魔法が気に入ったのか、魔法大好き娘になってしまったらしい。魔法幼女の爆誕である。
なんてバカな事を言っている場合ではない。現実世界ではそれでは困るのですよ、姫様。礼儀作法はあんまり知らないのに魔法をバンバンぶっ放すお姫様なんて、だれが娶ってくれるんですか。
国王陛下と妃殿下の縋る様な目が辛い。どうしてこうなった。
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