第69話

 いくら宰相閣下から明日も来いよと命令されているとしても、俺一人で王城には行けない。そもそも道順も知らないし、例え辿り着けたって城門の兵士に追い返されるのが関の山。


 と言うわけで、今日も辺境伯の馬車に乗せて頂いての登城となります。勿論辺境伯もご一緒です。ついでに言えばアンちゃんも一緒です。何でアンちゃんも一緒に行くのかって?それはアンちゃんが俺のお守り代わりだからです。心の癒しなんです。俺一人で王城あんなところ行きたく無いもん。


「本当に私も付いて来ちゃって良いのかな?」


 王城に向かう途中、馬車の中でアンちゃんが小声で聞いて来た。


「別に問題ないだろう?俺たちペアなんだし。俺だけ何かの打合せに呼ばれたら、アンナは騎士団と訓練していたらどうだい。宰相閣下か騎士団長にお願いしてみるよ。」

「えー、良いのかなぁ。でも騎士団の訓練って色々勉強になるんだよね。」


 アンちゃんちょっと嬉しそうにしている。少し元気出たかな。やっぱり一人や少人数で戦う剣士と団体で戦う騎士団とでは、戦術とか戦い方が違うのだろう。俺にはよう分からん、という事だけは分かった。


「恐らく、今日は対帝国についての今後の方針について話し合う事になると思うぞ。」

「その様な場に我々が居ても宜しいのでしょうか。」

「此度の戦いではお前たちの功績が大きい。色々奇抜な作戦も考え付く様だし、その辺りを踏まえて呼ばれたのであろう。」


 ビーム辺境伯様は領地がウェーバー帝国と接しているから大変だね。戦争で荒れた領地も立て直さなきゃいけないし。金策したり、領土防衛について打合せしたり苦労が絶えないのだろうな。本当にご心中お察しいたします。


*****


 王城に着くと、先ずは宰相閣下の執務室に呼ばれた。国王陛下からは後ほどお言葉があるらしいけど、先に実務的な要件を済ませておこうと言う事らしい。


「これが昨日頼まれていた紹介状だ。」


 さすが宰相閣下。仕事早いですね。昨日アンちゃんのために各流派の道場見学の紹介状をお願いしていたけどもう書いて頂けたらしい。


「ありがとうございます。いっそう修行に励みます。」

「それともう一つ。冒険者組合にお前達のランクをBランクにする様頼んでおいた。」


 これには俺もアンちゃんも、辺境伯まで驚いていた。


「ちょっとお待ちください宰相閣下。いきなりBランクと言うのはいささか性急すぎるのではないでしょうか。」


 何だろう。何か辺境伯があせっているようだけど。


「今回の戦働きを見ればランクアップも当然と思うが。あまり冒険者組合に口出しする事は無いのだが、今回は特例だな。」


 辺境伯のあせり具合と宰相閣下の口ぶりからして、何か政治的な絡みがあるのだろうか。俺たちを巻き込まないで欲しい。

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