第59話

 俺たちは豪華な客間へと通された、何て事は無く空いている使用人部屋を使わせて頂ける事になった。自費で宿に泊まる事を考えれば十分だと思う。使用人部屋とはいえ、今まで泊まっていたリンキの宿屋よりよっぽど立派だ。ミュエーも預かって世話してくれるし、文句を言ったら罰が当たるな。


 ビーム辺境伯は王都に着いてから何かと忙しなくしている。王城へ到着の連絡もしなければならないし、そもそも王都なんてそう頻繁に来るところじゃないから、やらなければならない事お仕事が貯まっているのだろう。俺たちにかまっている暇はあまり無さそうだ。


 俺としてはかまって欲しい訳じゃなくて、むしろその逆。放置しておいて欲しい。放ったらかし万歳。早速俺はビールを飲んだり、ウィスキーの水割りを飲んだりしてゴロゴロ楽しんでいた。


「いる?入るわよ。」

 ノックもそこそこに、放っておいてくれない子アンちゃんがやって来た。


「あー、また飲んでる。」

「良いじゃないか。とりあえず何もする事無いし。俺の楽しみなんだよ。」

「もっと体を動かして鍛えた方が良いんじゃない。」

「もうおっさんだから、鍛えるとか無理だって。」

 酒飲んでベッドでゴロゴロ。最高です。


「ジローは自分で思ってるほど年じゃないわよ。」

 小声で何か呟くと、アンちゃんは部屋から出て行った。最後良く聞こえなかったし、何か用があったんじゃ無いのかな。と思ったが、まあ良いかと思い酒飲んでゴロゴロを再開した。


 翌日、ビーム辺境伯に呼ばれた。ゴロゴロ怠惰に過ごしていたのがバレたかな、と思ったら違う話だった。


「明日国王陛下にお目通りする事になった。準備は執事に言いつけてあるので、あとで聞く様に。」

「明日ですか。とても急なお話ですので驚きました。私たちはどの様に振舞えば良いのでしょうか。」

「ふむ。まあ、黙って儂の後ろについて来れば良いさ。」

 この時ばかりは頼れる辺境伯様、カッコイイと思った。


 執事の人に色々教えて貰った。と言っても大したことじゃない。所詮俺たちは平民だから行儀作法なんて付け焼刃じゃ直ぐにボロが出る。体を洗って、髪をとかして、新しい服に着替える事くらいらしい。後は余計な口を利かず黙っている事だそうだ。


 もう一つ、陛下の御前ではどの様にするのかを聞いてみた。お、アレか。片膝をついて畏まるポーズか?と思ったら、平民は土下座だそうです。ですよねー。俺たち一般市民だもんね。お白州に引き出されてきた町人Aって感じですね。それなら直ぐにでも出来そうです。


 部屋に戻ると一緒にアンちゃんも入って来た。昨日の話の続きかな?


「ねえジロー。私ここまで付いて来ちゃったけど、一緒に行っても良いのかな。」

 何か悩み事でもあるのかい、アンちゃん。



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