第48話

 夜更けにアンちゃんと見張り番を交代した。正確な時間は分からないが、予定より少し長めに寝かせてくれた気がする。


「私の方が体力があるし、こういう見張り番の訓練もしてるから。」

 アンちゃんはそう言うけど、君だって大怪我したばかりだよね。あんまり無理はしないで欲しい。


「それじゃあ、今度は私が眠るわ。おやすみなさい。」

 アンちゃんは寒いのか、俺に寄り掛かるとすぐに眠ってしまった。


*****


「起きているか?」

 夜明け前に森の狩人のうちの一人が戻って来た。追い込みは順調に行ったかな?


「あと1時間もしないうちに朝日が昇って来る。その直前にこっちへ追い込んで来る予定だ。準備しておいてくれ。」

 それだけ言うと彼はまた森の奥へ戻って行った。俺はアンちゃんを起こすと今の話を伝えて、準備を始めた。


「いい事、邪魔する兵士が居たら私が切り伏せるからすぐ後ろを着いて来るのよ。」

 アンちゃんは自分の見せ場が来たとばかりに張り切っている。

「分かったよ。」

「スピードを出す時には姿勢が大切なの。昨日の練習を思い出して。」

「了解した。」

「それから・・・」

 俺はアンちゃんから細々こまごまと注意を受けた。まるで初めて一人でお使いに行く子供みたいだ。まあ騎乗して敵陣に突入するのは初めてだから似たようなものか。


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるけど、アンちゃんって案外心配性なのかな、って。」

「バカね。あなたが敵陣の真ん中で落馬でもしたら助けに行ける人は居ないのよ。」

 それもそうか。でも魔法をバカスカ打てば何とかなりそうな気もするけど、そんな事はしたくないと言ったのは俺か。

「必死になってアンちゃんの背中に着いて行くよ。」

 何か納得していない様な顔だったが、一応頷いてくれた。


 もうすぐ日が昇ろうと言う頃合いになって、森の奥の方から鳥たちの騒がしい鳴き声が聞こえて来た。

「いよいよ来るようね。」

「そうだね。」


 それからものの数分もしないうちに、森から魔獣たちが跳び出して行った。オークやコボルト、フォレストボア、ラージホーンディアなど、100匹くらいは居るだろうか。その後ろから大きな熊に乗ったイワンが現れた。金太郎だ、金太郎が居るぞ!


「お待たせ。何とか集めて来たぜ。後は頼んだ。」

 金太郎、もといイワンが呼びかけて来た。

「準備は出来てる。任せろ。」

俺とアンちゃんを乗せた2頭のミュエーが魔獣たちの後を追い始めた。


「なんだ!森から魔獣たちが向かって来るぞ!」

 帝国兵も気づいた様で、迎え撃とうと陣形を組み始めた。でも俺としては魔獣たちにはもっと奥まで突進して欲しいんだよね。そこで俺は早速帝国兵に魔法をお見舞いする事にした。


「放水!」

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