第42話

 追加で焼いたハムを食べながら、アンちゃんはぽつりぽつりと話し出した。


「私の実家は剣術指南役の家柄なの。だから私も小さい頃から剣術の修行をさせられたわ。小さい頃は才能があるって褒められたのだけど、最近伸び悩んでいるって言うか。」

 アンちゃんが自分の生い立ちを話すのって珍しい気がする。初めて聞いたかも。


「段々と大人になるにつれて、兄や弟と差がついて来たの。私は女だから、やっぱり体格でも体力でも敵わないのよ。」

 自嘲気味に話すアンちゃん。いや、このおっさんよりよっぽど体力があると思うけどね。


「だから私は剣技と瞬発力スピードを磨く事にしたの。そして無理を言って修行の旅に出て来たってわけ。でも駄目ね。追っ手から逃げるうちに体力スタミナ切れで瞬発力スピードも落ちて。結局腕を斬られてしまったわ。」

「いや、ここまで戻ってこられるだけでも凄いと思うよ。」

「でも、あなたが居なければここで死んでいたと思うわ。・・・私はこれからどうしたら良いと思う?」


 いきなり人生相談されちゃいました。おっさんには剣術なんて分かんないし、良いアドバイスなんて思い浮かばないよ。俺が黙ったままで居ると、再びアンちゃんが話し始めた。何やらまた顔が赤くなり始めたぞ。


「そ、それにね。これは夢だと思うんだけど・・・。夢の中で女神様のお声を聴いた気がするの。”あいつジローのものになっちゃえよ”って。」


 ・・・コーラス様。何変な事をそそのかしているのですか。アンちゃんが困ってるでしょう。


「私に才能が無いのなら、それも良いかなーって。ジローあなたとなら食べるのに困る事もなさそうだし。」


 何かロマンティックじゃない現実的なプロポーズを受けました。いや、これはプロポーズじゃないな。


「アンナ、落ち込んだからって捨て鉢になっちゃダメだよ。本当はもっと剣の腕を磨きたいんだろう?そのために修行の旅に出て来たんだろう?」


 俺はなだめる様に声をかけた。


「一時の気の迷いで夢を捨ててしまって良いのかい。」

「だって・・・。」

「足りないものがあれば補えば良いのさ。俺には剣術の事は分からないけど、アンナに一番足りてないものは戦い方なんだと思うよ。」

「戦い方?」

「例えば、今俺たちがやっている様な事さ。50人で2万人をかく乱してるんだぜ。」


 俺は必死に考えてアンちゃんを説得した。俺だってアンちゃんの事が好きだ。だけど、どうしても前世今までの価値観に縛られているって言うか・・・。踏ん切りがつかないんだよ。


「すごく簡単に言えば、型通りではなく臨機応変に戦うって事さ。周りの木だって、石ころだって、何だって使えば良いんだ。特に今は戦争だ。御前試合じゃないんだから正々堂々なんて言ってられないよ。」


 アンちゃんは暫く考え込んでいたが、顔を上げると俺に言った。


「分かったわ。私剣術の修行を続ける。」

 決心がついた様だ。


「それと二人きりの時だったら”アンちゃん”って呼んでもいいわ。今朝、私が目を覚ました時にそう呼びかけてたでしょ。前から時々寝言でそう言ってる見たいだし。」

 アンちゃん呼び、ok頂きました。でも野宿での仮眠で、俺寝言なんか言ってたんだ。ちょっと恥ずかしい。


「そして、ジローにも一緒に修行の旅に付いて来て欲しいの。」

 おやおや?まあ冒険者は何処へ行くのも自由だし、ペアも組んでるしね。でもなんで付いて来て欲しいんだろう?


「一緒に行くのは良いけど。もしかして、裸を見たから責任取れって言う・・・」

「バカ!。あなたと居ればご飯食べられるからよ。」


 照れ隠しかも知れないけど、何時ものアンちゃんが戻って来た様で嬉しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る