第104話 恐怖の星 メラキュラ
ラーラと話しているうちに俺たちはメラキュラ星へと到着した。
メラキュラ星を見ての第一印象は、黒。
一面白景色だったフロージアとは真逆の印象だ。
朝のはずなのに辺り一面真っ暗で、既に恐ろしい雰囲気が醸し出されている。
「じゃ、じゃあ降りるぜ?」
誰も宇宙船から降りたがらない様子を見かねて、レオが先陣を切って船から降りる。
正直ビビっているのでかなりありがたい。
船から降りると遠くから物音が聞こえる。
音のする方向を見てみると……
「うわあっ! お、お化け!?」
何かよく分からない白い物体が浮いているのを確認。それは少しふわふわと浮遊した後、静かに姿を消した。
いきなりの心霊現象に静まり返る俺たち。
すると、静まった周囲から、ギイギイガアガアと気持ちの悪い音が……。
あまりの不気味さに、到着1分でメラキュラの空気に飲まれてしまった。
「これはこれはオグレスの皆様。
ようこそ来られくださいました」
「ヒッ! だ、誰!?」
音もなく忍び寄ってきた男性。一部人物を除き、ほとんどの人物が彼の言葉に驚いてしまう。ダメだ。完全に恐怖心を抑えられていない。
「驚かせてしまいましたか。失礼失礼。
俺はオルロック。ここメラキュラ星代表、チームダーニバルのキャプテンを務めています。どうぞよろしく」
「…………」
「おい、お前キャプテンだろ! 行けよ!」
「あ、そ、そうだった……」
恐怖で思考が停止していた俺。将人にどつかれ本来の役目を思い出すと、一歩前へ出、オルロックと名乗った男性と向かい合い挨拶を交わす。
「は、初めまして!
オグレス代表チームグロリアンズのキャプテンの山下龍也です!
明日はいい試合にしましょう!
よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を終え握手をしようと手を差し出す。
相手も手を差し出してくれ、手を握ったのだが……
「え……」
手が冷たく、体温というものが感じられない。
まるで……
「きゃあ!」
「ミアちゃん!? どどどどうしたの!?」
「く、口……口の中に……牙が……」
牙?
恐る恐る、オルロックさんの口を見てみると……
「失礼。また驚かせてしまったか。
……そうです。これは紛うことなき牙。獲物を噛み、血を吸うためのものです」
血を吸うって……それじゃあ本当に……
「吸血鬼……」
「お、よく知って。
……その通りでございます。私は吸血鬼の一族。
しかし安心してください。貴方方の血は吸いませんですから。吸ってしまうと、大会のルール的にアウトですので」
「それって……大会のルールが無ければ吸ってたってことじゃ……」
「……それは、貴方方の想像にお任せします」
オルロックの笑み。それは脅しとも取れるもので、俺たちの恐怖心を増大させるのには充分だった。
その後周囲を見回すと、残りの選手や監督などメラキュラチームが勢揃い。
全員コートとフードで体を隠していて姿はよく見えなかったが、おどろおどろしい雰囲気は十二分に伝わってきた。
そして俺たちはオルロックさんに連れられホテルへ向かう。
知ることで少しでも恐怖を和らげようと、道中も周囲で蠢くお化けのような恐ろしい何かについてオルロックさんに何度か質問するも、全てはぐらかされてしまう。
謎のままにしておくことが俺たちの恐怖心を煽れると理解しているのだろう。実に厄介だ。
と、そんな状態なのだから、もちろんクレと話せるような状況でもなく、俺たちはほとんど無言のままホテルまでの道のりを進んでいた。
途中、レオやザシャ、アリス、本当にホラー耐性があったらしいペペが怖がるチームメイトに話しかけようとするも、撃沈。会話は弾むことなく、最終的には沈黙が続いたのだった。
数時間歩いた後、今日泊まるホテルに到着。
オンボロではないが、廃墟のような雰囲気のホテル。オルロックさんの説明だと高級ホテルらしいが……。
震えながらホテル内へと入る。当然というようにホテル内でも心霊現象は起きており、更に恐怖心を増幅しながらそれぞれの部屋へ。
無論部屋の中でも心霊現象は起きており、急いで全員が集まれるミーティングルーム(仮)へ。
「だあああああああああああああ。
怖すぎるだろ流石にいいいいいいいいい」
叫ぶ将人。当然だろう。この星に来てから心の休まる瞬間が無い。こんなストレスと恐怖心を抱えたままで試合なんて不可能だ。
「みんな疲弊してるわね。でもこんな時こそ科学の出番!
作戦会議! するわよ!」
「科学の出番……?」
「そう! 言ってなかったけど、恐怖心を和らげる方法が一つだけあるの! それが科学」
「ちょっと待ってくれよ」
「どうしたの? ヒルくん」
「前から思ってたんだけどさ、作戦会議だろ? こんな敵陣ど真ん中でやっても情報だだ漏れにならねえか。
まあだからといって、この作戦会議はオグレスでできたものでもないからしょうがねえとは思っているが」
「そうね。一応盗聴器の類いを機能停止にさせられる妨害波は流しているけど、もしあのお化けで話を聞かれてたりしたらどうしようもないものね。
それも込みでホームの優位性ってことよ。割り切るしかないわ」
「チッ、そういうもんかよ」
「それでフィロさん、恐怖心を和らげる科学とは一体?」
答えを催促するアラン。兎にも角にも恐怖心が問題なので、それを和らげる方法となるとかなりの重大情報。一刻も早く知りたいのは俺も同じだ。
「そのままの意味よ。
お化けに対する恐怖は自分の理解できないものに対する恐怖。ならば、お化けを理解してしまえばいいの。科学の力でね!
というわけで私たちはこの星に上陸してすぐ、キューを飛ばしたわ。あ、キューっていうのは、地球でいう……ドローン? 的な? まあそういう、自動で飛んで、映像や音声を保存できるやつね。
そして、撮ってきた情報からメラキュラの心霊現象について解明していこうってわけ」
ふむ……言ってることは正しいと思うのだが、果たして可能なのだろうか。
こういう星なら、科学を超越した何かでもおかしくはないと思うが……。
まあいい。これも大事だが、一旦落ち着いたし少しだけクレと話を……
「あれ?」
「龍也くん、どうしたの?」
「クレ、どこにいます?」
クレの姿が……見当たらない。
「え!? もしかしてはぐれたの!?」
どよめくチームメイトたち。しかし、ここでラーラが声を上げる。
「あの……クレくんなら、練習してくるって言って、さっき外に行きました」
「ええ!? 本当? ラーラちゃん。
ほんとだ……近くにいる」
「すみません。言ったら止められるかもしれないから黙っててくれって……。
でも、クレくんはこの試合に賭けてるんです! どうかもう少しだけ練習させてあげてください!」
「……大丈夫よ。ラーラちゃん。私だって事情は把握してる。
それにクレくんはテルを所持しているから居場所も把握できるしね。邪魔はしないわ」
「本当ですかっ……!」
どうやらクレの特訓は止められないようでよかった。
今回の試合に賭けるクレの熱い気持ちは俺にも伝わっている。満足のいくまで戦わせてやりたい。
「すみませんフィロさん。じゃあ俺も少し練習しに抜けていいですか」
「あなたはダメ」
「え!? な、なんで!?」
「当然でしょ。あなたはキャプテン。今から話す内容はキャプテンとして知っておくべき情報よ。
この話し合いには確実に参加してもらいます」
「は、はい……」
クソっ。せっかく話しにいけるチャンスだったのに……。
まあ仕方ない。クレとの話は、今日クレが帰ってきてからか、明日かのどちらかだな。
ということで今は、メラキュラについて、科学的な理解を深めようか……!
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