第89話 隠蔽事件
行方不明のネイトを探しに宿舎から外へ出る。
走りながらクレの話を聞いて気になった点を整理しよう。
まずはヒル。
確かに元々口の悪いやつだがあれ程ではない。何があった?
思い当たる節としてはフロージア戦でのレオぺぺとの揉め事かヘンディとの一件。しかしそこまで尾を引くことか……?
となるとやはり一番可能性として高いのは特訓場か。
俺の特訓相手はアウラス監督だったが、あの説明を聞くに人によって違うのだろう。
ヒルの特訓相手が何か悪影響を及ぼした。俺はこれだと睨んでいる。
だが、ヒルの様子を聞いた感じだと、今そのことで話に行っても逆効果だろう。しかし、だからといって時間を空けるのがいいのかと聞かれるとこれも違う気がする。
特訓相手に問題があるのなら、まさに今行われている特訓で何かが起こっているのかもしれないし。
これは正直、特訓場を運営しているアウラス監督やフィロさん等の大人組を頼った方がよさそうか。
もちろん、特訓場が原因と決まったわけではないので、もし違った場合は俺も全力で対処しよう。
次にフィロさん……というかオグレス星。
科学の発展しているこの星だ。テルのGPSが無かろうが、人一人見つける方法なんていくらでもありそうなものだが。
この場合予想される展開は2つ。
1つ目、フィロさんは既にネイトの居場所を把握しているが、何らかの理由で俺たちにはそのことを隠している。
2つ目、フィロさんは科学力を駆使してネイトを探しているが、それでも見つけられていない。
個人的な予想は2つ目。フィロさんがクレや将人の手助けを断って一人で探そうとしたのが引っかかる。マネージャーたちの力も借りていないようだし。
もしかしたら、最初にネイトの話を聞いた時点でかなり力を入れて探したんじゃないだろうか。その上で見つからなかった。だから、フィロさんは何かの事件に巻き込まれたのではないかと疑い、一人でネイトを探そうとした。
筋は通っているように思えるが、特段何か証拠があるわけでもない。俺が深く考えすぎているだけの可能性の方が高い。
しかし、もしこの推測が正しかったらと思うと焦りもする。
とはいえ俺に何ができるのか。息巻いて出てきたのはいいものの、土地勘すらないのは中々にキツい。本当に何から手をつけていいのかわからない……。
だが立ち止まってもいられない。何か行動してみないことには始まらない。
宿舎の外で唯一俺が知ってる場所、ミロク・エリラにでも行ってみるか。流石にあの場所にはいないだろうが、知り合いもいるし何か手がかりを入手できるかも。
***
「あ」
「あ」
「「…………」」
ミロク・エリラに到着した。そこにいたのは……ネイトだった。
「は、え? ネイト!? なんでここに?」
「…………」
何も答えず、慌てた顔で俺に背を向け走り出すネイト。
このまま逃がしていいわけがない。
「待てよ、ネイト!」
声をかけながら奥の方へと逃げるネイトを追いかける。すると……
「びいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
あの警報音。
ゲッ、これって……
「侵入者だ! 確保せよ!」
「ちょ、またこの流れかよー!?」
***
「一度ならず二度までも。飽きないね、君も」
「わざとやってるわけじゃないですよ……カグラさん」
「そうか、あはは」
またも銃士隊に捕まった俺は、今回も同じくカグラさんに助けてもらう。
残念ながら、そのうちにネイトは見失ってしまったのだが。
「知ってるんですよね、ネイトのこと。みんな心配してますよ、もちろんフィロさんも」
「だろうねぇ。いやー、私もどうするべきか悩んだんだよ? でも……」
「いい判断じゃったぞ、カグラ」
「その声は……ミコトちゃん?」
「はっ、気安くちゃん付けで呼ぶでないわ。
して何用じゃ、ネイトを奪い返しに来たか?
残念じゃが、ネイトを渡す気はない」
「何言って……ネイトは俺たちの仲間だ!
戻ってきてほしい」
「何を言うておる。ネイトが望んでここにおるのじゃ。これはやつ自身の意思じゃ。
貴様如きが人の意思を変えられるものか」
「なら……せめてネイトと話をさせてほしい」
「……ダメじゃ」
「なん――」
「逃げ出してきた者に、貴様が何の言葉をかけられよう」
「…………ッ」
「わかったら早う帰れい。
安全が保証されておることがわかっただけでもよかったじゃろう。
ネイトの今の居場所は、ここじゃ」
これだけの言葉を残して、ミコトちゃんも奥へと姿を消してしまった。
「悪いな、ほんと」
「いえ、……カグラさんはいつから知っていたのですか?」
「んー? 言うなら最初からだなー。
ここでミコトちゃんと話してたら、ちょうどネイトくんが来たって感じ。2人が少し話したら、ミコトちゃんがここに匿うって聞かなくてさ」
「それで、ネイトの存在をオグレス星のデータから隠蔽したんですか」
「うぇ、そこまでバレてるのかぁ。
そうだよ。でもこれはミコトちゃんの指示じゃない。少し迷いはしたけど、これは私の意思さ。ネイトくんの様子がおかしかったのも確かだし、そういうときにどうすればいいかはわかってるつもりだからね」
なるほどな。
確かに話を聞く限りここに来たのはネイト自身の意志のようだ。ここに何か目的があったというより、偶然辿りついた感じだろうか。地球に雰囲気が似ている場所だし、精神が不安定になったのならここに来るのも理解できる。
それに、今更ネイトが何に悩んでいるか疑問に思うこともない。察しはついている。
だとしたら今はここに居させてやるのも悪くないのかもしれないな。
宿舎に戻って解決する問題にも思えない。寧ろ今のヒルが心無い言葉を浴びせる危険まである。
ここでの生活は悪くないようだし、少しの間だけでもここにいることがいい影響を及ぼすかもしれない。
「あれ? ていうか一応フィロには連絡してたんだけど……聞いてなかった?」
え、そうなのか?
俺自身はフィロさんにあってないとはいえ、クレからそんな話は聞いてないんだけどな……。
もしかしたらクレたちと別れた後に連絡が来て、その裏取りでもしてたのだろうか。
「聞いてない……ですね。また戻ったら話してみます。
それにネイトですが、こちらからもよろしくお願いしますと言っておきます。
無理に連れ戻すのが彼にとって正解とは限りませんから」
「……なんか、しっかりしたな。
この間と比べても、若者の成長速度は早いねぇ」
「そ、そうですか?」
ああ、なんか安心したらまた眠気が。疲れてたのに動き回ったからだなぁ。限界が近いかも。
「そうだ。君この間話の途中で帰ったろ?
ウララさんがもう少――」
「すみません、ちょっと色々あって疲れたので今日は帰らせてもらいます。色々とありがとうございました。そして改めてネイトのことよろしくお願いします」
「あ、ああ。疲れてるのなら仕方がないな。
お疲れさん。この間の試合もよく頑張ってたと思うよ。ゆっくり休みな」
「はい、ではそうさせていただきます」
こうして俺は宿舎へと戻る。
フィロさんへ確認のメッセージだけ飛ばして部屋に直行だ。
疲れて頭がぼーっとしている。
早く寝たい、と思っているのに
「龍也くん、少しいいですか。これから大切な話があります」
「なんだよ……アラン」
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