第60話 密談

 「フィロさん、少しお話よろしいでしょうか」


 夕飯を食べ終えた俺は、部屋に戻る前にフィロさんを呼び止めた。

 人に聞かれたくない話だったので、話をする場は食堂から離れた人気の無い場所を選んだ。


 「なにかしら? 龍也くん。

 未来ちゃんとデートしてたのに、今からお姉さんも誘う気……?」


 ***


 「デートじゃないですからっ!」


 「み、未来ちゃん、どうしたの……?」


 「はっ!? な、なんでもないです……」


 ***


 「お、お姉さん……?」


 「別にそこは突っ込まなくていいから!」


 「いや、俺は17歳ですし、年齢的にギリお姉さんとも言えるのか……?」


 「年齢的にとか言わなくていいから!

 あと"ギリ"って言うの傷つくからやめて!

 ……はいはい、変なことは言わないわ。エリラに行ったことでしょ? カグラから軽く話は聞いてるわ。大丈夫なの?」


 「はい、少し取り乱しましたが、もう大丈夫です」


 「……未来ちゃんかしら? いい子ねあの子」


 「え、ええ、まあ。凄く感謝してます」


 「ふーん。大丈夫そうならよかったわ。カグラは結構心配していたみたいだし。

 それで、何か用かしら?」


 「その節はご迷惑をおかけしましたと伝えていただきたいです……。

 用事は、シンプルにお礼です。

 フィロさんは俺の親や兄弟のことについて知ってたのですよね? そして、このことを俺に伝えられるタイミングは他にもあった。

 しかし、今日まであえて話さず、俺が1番受け止めやすいタイミングで話を聞かせた。エリラについて未来に話し、未来も付いてくるように仕向けたのもフィロさん。

 迷惑はかけてしまいましたが、凄くいい機会になったと思います。ありがとうございました」


 「そんなにかしこまらないで。

 私はあなたたちのサポートを仰せつかっているの。これくらいのことは当然よ。

 でも、未来ちゃんを付けたのは正解だったみたいね。その様子だとかなり助けてもらったみたいだし!

 やっぱり私は人を見る目があるわね」


 「うんうん。男を見る目は無いのにねー」


 「いやいや、私に見る目が無いんじゃなくて、向こうが私を見る目が無いの……って、は!? 急になに!?」


 「えっ!? お、俺じゃないですよ!」


 「へへっ、俺でしたー」


 「!? ペペくん! あなたいつから」


 「いやー、こそこそと怪しかったもんで。

 キャプテンがエリラの中で何をしてたのかも気になってたしね〜。

 で、凄く興味深いワードがあったんだけど、キャプテンの親と兄弟がなんとかって」


 ペペ……! こいつ全部聞いてたのか、ここまで聞かれていたら誤魔化せない。いや、そもそも誤魔化すようなことでもないか。素直に話した方が早いな。


 「別に大したことないよ。昔俺の親と兄弟がここに来てたって話だ」


 「ふーん。で、その親か兄弟のどちらかがちょーうサッカー上手いとかー?」


 「サッカー? それは別に関係ない。

 ただその2人が……行方不明だってだけ」


 「…………」


 「…………」


 「そっか。それはちょっとデリカシーに欠けてたな。

 悪かった。見つかるといいなー、2人とも」


 「……ああ!」


 「と、いうことで、俺の用事はしゅーりょー。

 用事はね?」


 「?」


 「えー、まだ出てこないのー?

 もういい加減出てきたら? これは求めてる話じゃないのー?」


 「……気づいているなら気づいていると言えばいいと思いますが。全く、人が悪い」


 「アラン!?」


 は!? アランまで!? 何人いんだよここは??


 「まさか他にも誰か!?」


 「いませんよ。一応周囲は警戒していましたから」


 「そ、そうか。

 で、お前はなんでこんなところにいるんだよ」


 「エリラでの出来事が気になっていたからです。貴方は先程答えてくれなかったので」


 「答えてくれなかったって俺が悪者みたいじゃねえか! お前ストーカーしてたの忘れてないか??」


 「わかっていますわかっています。

 レオくんとペペくんに無理やり連れて行かれたとはいえ、あれは僕が悪かったです。すみませんでした」


 「いや、別に本気で怒ってるわけじゃないからいいけど……。

 てか、いちいちレオとペペがって言うあたり、アランって意外とプライド高い?」


 「そうですか? そんなことは無いと思いますが……。

 そんなことより、あなたの家族についてです。デリケートな話題なのは承知していますが、あえて聞きます。何があったのですか?」


 あまり触れられたくない話題だ。話すことは躊躇われたが、アランが真剣な顔つきだったため、仕方なく全てを話した。


 「なるほど。未知の力を秘めた子……。

 ありがとうございます。色々と参考になりました」


 「お、おう」


 「龍也くん」


 「ん?」


 「お父さんのことは残念だと思います。しかし、まだ兄弟の方は生きている可能性が高いですよね。

 そして、おそらく貴方はゼラからその兄弟を救おうと思っている」


 「ああ! 難しいことはわかってる。それでも俺は絶対に助けてみせる……!」


 「そう言うと思いました。

 それでは、僕もお手伝いします」


 「え?」


 「貴方のご兄弟の救出をですよ。

 困ったときはお互い様です」


 「……!

 ア、ア、アラーン!!!」


 「!?

 な、なんですか。急に」


 「いやー、やっぱアランはいいやつだな。ありがとう。頼りになるぜ」


 「わかりました。わかりましたから離れてください!」


 「ふふっ、青春ね」


 ***


 味方も増え、また一歩目標に近づいた。

 2戦目まではあと1週間。明日からまた練習再開だ。

 遠くの目標も大切だが、直近の目標である次の試合の勝利も大切。

 どんな相手だろうが絶対に負けない。

 決意を新たに、俺は眠りにつくのだった。

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