第19話 不利? 有利?

 「明明後日です!!!」


 「ちょっと待ってくださいフィロさん。本当に明明後日試合が行われるんですか……?」


 「そうよ。明日コイントスして明後日現地入り。そして明明後日が試合。わー時間が無い無い」


 「あ、あの言い難いんですけどそんなスケジュールでしたのならもっと早くチームを組んでおくべきだったのではないでしょうか。まだ1回もまともに練習してないですし……」


 「ええそうねアランくん。本来ならその通りよ……。

 でも仕方ないでしょ! この連絡きたの今日のお昼なんだから! ちょうどあなたたちが地球に戻ってる時!

 そりゃ私だってびっくりしたし抗議したわよ! でも返ってきた言葉は『突然すぎるって? まあその方が面白いからね。頑張って〜』よ! 大人を舐めやがってあのクソガキー! 絶対にぶっ倒してやるんだから覚悟しなさい!!!」


 フィ、フィロさんがめちゃくちゃ荒れている……。

 しかしこれはかなりマズイな。俺たちのチームはまだ何もかもが足りていない。こんな状態で明明後日には試合なんて正直絶望的だ。

 ……オグレスの科学で時間止めたりできないだろうか。

 はっ!? 現実逃避してる場合じゃない! 現実的な案を出さないと……。

 急げ……急げ……。


 「……はい! 焦るの終わり!

 ほらほらみんなも! 暗い顔やめて!

 決まっちゃったものは仕方ないでしょ! ハプニングも楽しまなくちゃ!」


 !? いきなり冷静になった。つい数秒前まで焦りまくってた人と同一人物とは思えない切り替えの速さだ。


 「んー? みんな何そのさっきまで焦りまくってたくせにみたいな顔は。

 これでいいの。全力で焦って気持ちを吐き出す、これだけでかなりすっきりするんだから。オグレス流のメンタル回復術よ、みんなも辛いことがあったら使っていいわ」


 「ほっほ、それにお前さんらトールの言ったこともう忘れたのかの?

『サッカーを楽しむ』この気持ちさえあれば何とでもなるわい。

 それに突然試合が決まって焦っているのはわしらだけじゃないしのう」


 「……そうか! 条件は他のチームも同じ! なら焦らず冷静に戦えば勝機はあるかも……!」


 「で、でも突然の連絡はぼくたちだけで他の星には事前に連絡が行っていたのかも……。

 それに最初の連絡は1ヶ月前なんですよね? 他の星が連絡後すぐにチームを組んでいたとしたら既にそこそこ練習ができていてまだ何もできてないぼくたちより有利なんじゃ……」


 「安心してネイトくん。まず前者についてだけど、大会の連絡はミドラス星っていうゼラの管轄の星で全チーム揃って行われるの。他のチームも私と同じように焦っていたから情報に違いはないとみて間違いないわ。

 次に後者、確かにこれはその通り。すぐにチームを組んで練習を始めていた星の方が多いと思うわ。でもね、そんな短期間のビハインドなんて塗りつぶせるくらいの有利が地球にはあるの!」


 こんな俺たちに有利が……? なんだろう。身体能力かと思ったけど、オグレスの様にサッカーに適さない身体の星ばかりではないだろうし有利と言うほどでもないか。うーん、わからん。


 「フィロちゃんさん! その有利とは!? まさか身体能力じゃないよね……?」


 急かすペペに対してフィロさんは薄く笑って答える。


 「ええ。残念ながら身体能力じゃないわ。というか地球人の身体能力って中の下くらい。有利どころか不利な要素ね」


 「あわわ……。じゃあそんなの勝てるわけないよ……」


 「まあ落ち着いてネイトくん。

 サッカーってね、色々な星で楽しまれてはいるけど、地球ほどメジャーな星は少ないのよ。もちろん、今回のトーナメントが発表されるまでサッカーに触れたことない星だって存在するわ。

 つまりサッカーに向き合ってきた時間、サッカーに対する理解、そして個々の技術においてあなたたちには大きな有利がある!

 もちろんどの星もトッププレイヤーを集めてくるはず。それでもあなたたちに分があると確信しているわ。

 だから大丈夫。ドンと構えておきなさい!」


 これは意外な情報。

 宇宙を巻き込んだ大会を開くぐらいなのだから、宇宙でもサッカーはかなり流行っているのだと思っていた。

 これなら希望は見えてくるな。

 しかしここで1つ疑問が浮かぶ。


 「それでも大会を開催してるのだからゼラではかなりサッカーがメジャースポーツなんですよね?」


 「それが謎なのよねぇ。

 ゼラでサッカーが流行ってるって話は聞いたことがなくて……最近急激に流行りだしたってことなんだろうけど、それでもこんな重要な役割にサッカーを置いた理由としては疑問が残るわ」


 なるほど。サッカーが選ばれたのにも理由がある可能性もあるわけか。

 まあそんなことを考えても仕方がない。今考えるべきことは……


 「質問はもうないかしらー?

 では次、1戦目の相手について話すわよ!

 1戦目の相手はギガデス星。チーム名はグラッシャー。

 ギガデス星人の特徴はその大きさ。平均身長は2.3m、身長に見合うパワーもあるから注意して」


 「ひぃえええ……平均ってことは選手たちはもっと高いんだよね……。

 ぼくより1mくらい高いんじゃないの……」


 「ガハハ! 気にするなネイト! パワーなら俺様に任せとけ! どんな相手でも吹き飛ばしてやるぜえ!!!」


 「確かにそうね。選手たちの平均身長なら2.5mくらいにはなるかしら。

 でも大丈夫! ギガデスではサッカーは流行っていなかった。だから技術力ではあなたたちの方が確実に上よ! パワーに恐れずテクニックで潰してやりましょー!」


 「ほっほ、そういうわけじゃ。

 よーしじゃあ今日からの3日間の練習メニューを発表するぞー。

 お前さんたちに課すのは基礎練、そしてチームメイトとコミュニケーションを取ることじゃ」


 「えっと……それだけですか?」

 「前言ってた特訓場は使わないんですか!?」


 「ほっほ、それだけじゃ。

 ただ3日目の後半だけはキャプテンに練習方法を一任するぞい」


 「ぼ、僕たちにコミュニケーションが必要なのはわかります。ですが相手は宇宙人です。時間が無いとはいえそれ相応の練習は必要かと」


 監督に対して意見を言うアラン。そのアランに近づく影が1つ。


 「おい」


 そう言って彼はアランの胸ぐらを掴む。


 「な、なんですか、ルカくん」


 「口答えするな。監督の言葉は絶対なんだよ」


 ルカはそのままアランを突き飛ばす。


 「気を悪くさせたならすみません。別に反対しているわけではないんですよ。少し気になったことを言っただけです」


 アランは咳き込みながらも笑顔を崩さずそう返す。


 「だからそれが要らないんだよ。お前らは何も考えず監督に従っていればいい」


 「ほっほ、そこまでにしておくのじゃルカ。

 アランよ、別にわしは時間が無いから特訓場を使わなかったわけではないんじゃよ。

 今このチームに1番必要なものがコミュニケーションだと思っただけじゃ」


 「あ、いや、そんなに否定してるわけではないんですよ。ほんと少し疑問に思っただけなので。

 意図は理解しました。ありがとうございます」


 監督の説明でアランも納得する。


 やるべき事は決まった。

 試合まで3日。キャプテンとして全力で戦い抜く……!

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